オーツ先生、聖人を語る・1
聖女派の聖女については理解した。では国教派の女性聖人は。
尋ねたリリーに、エドモンドは「私よりオーツが詳しい」と言った。
坊ちゃまは説明が面倒になったのだ、たぶん。言われた通りリリーは先生に聞くことにした。
後日、いつものように部屋を訪ねた。購入しただけで読みもしない本がソファーを占拠しているので、先生のかわりに本棚に片付けながら聞く。
適当に整理していかないと、座る場所がなくなりそうだし、冬になっても暖炉が使えない。困るのはリリーだ。
「私もあの時、同じ教会にいたのよ。代理で出席していたし席が離れていたから、アイアのテーブルへ行けなかったけど」
オーツ先生もリュイソー聖女と会っていたとは。それなら話が早い。
「いかにも聖女派らしい聖女だったわよね。かわい子ちゃんで、男ウケのいい。ほら、信者拡大の使命があるからそこは重要でしょ」
何とも返答に困る感想は、取り合わないことにする。
「近くでお話ししても、奇跡を起こしそうな何かは感じられませんでした」
確保したスペースに座って、先に座っていたオーツ先生に伝えると、すぐに指摘を受けた。
「アイア、その考えから既に違ってるわ。聖女派の場合、聖女に任命されたらもう奇跡は必要ないの。起こした奇跡により『神に選ばれし者』と周知されたら、あとは神に祈る姿を見せれば、人々がありがたがるのよ。信者を増やす事が目的だから、それでいいのよ」
奇跡は本人が起こすものではなく、神がその体を通して行うものだから、三度目がなくてもそれは神の御意思だ。
「『聖女派の場合』とおっしゃるなら、国教派はそうじゃない?」
オーツ先生がニヤリというような笑い方をする。
「国教派は実力主義なの。『聖なる力』を持つ人を聖人と認め、高待遇を約束して国教派に組み込むの。だからその力はずっと持てるわ。神の力じゃなくて本人の力だもの、当然よね。立身出世の道ととって良いのじゃないかしら。力があれば身上についてはうるさく言わないと聞くわ」
そもそもの成り立ちが違う、と先生が解説する。
聖女派の信者拡大に対抗する策として、国教派は聖人の認定を始めた。聖人として組織内にいれば、信心はさほど問われないというから、リリーには驚きだ。
「なんだか就職みたい……」
「その感想は、間違ってないわね」
オーツ先生が詳しいのは「国によって異能の扱いに違いがあることに興味を持ち、民族別に分類しようと試みたから」だそうだ。試しに聖人になってみたいのかと思ったら、そうではなかった。




