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貴公子は「聖女」と語る・2

「悪魔祓いとは、教会にとって『便利な』と言うのが不適切ならば、『都合のよい』ものだ」


特に思うところもない様子でエドモンドが語る。


「公国においては、精神錯乱やヒステリーと判断する心身の状態を『悪魔に取り憑かれている』とし、聖職者が説得や祈りによって悪魔を追い払い、正常な状態を取り戻す」


 そんなこと本当にできる? 疑うリリーの気持ちを汲んだらしい、エドモンドが薄い笑いを浮かべる。


「何もしなくとも時間が解決する事も、周囲の者の態度の変化により気持ちが落ち着く場合もある。『奇跡』と騒ぐほど大層なものとは思えない」


「それ、わざとすることは? 仮病みたいに」


 背を向けるよう指示されて、リリーは聞きながら素直に後ろを向いた。

 エドモンドが手櫛を入れながら、赤毛を編んでいく。世話をするロバートを見るうちに覚えたらしい。今ではエドモンドの方が手の込んだ髪型をつくるほどだ。


「いい質問だ」


誉められたリリーが嬉しそうに振りむこうとする。


「動くな。引っ張ると泣くのだろうが」

「そんなことで泣いたりしないもん」

というやり取りも、お決まりだ。


「聖女派の『聖女』は、修道女のうちから定期的に出現する。決まって有力な支持家の若い娘だ」

「奇跡は? 起こす奇跡はいつも同じなの?」


 意気込んで聞くリリーに、すぐに返すエドモンドが上機嫌であると、ロバートにはわかる。


「悪魔祓いと他ひとつ、といったところだ。悪魔祓いを『癒し』に含める感覚からして理解できないが、それを言い出すと切りが無い。『(よみが)り』は、止まってすぐの心臓に処置的な施術をしているようだし、公国で『過呼吸』と呼び病には含まないものを落ち着かせるのまで、広く『癒し』に含めた事例もある」


「そんなの――」

「奇跡ではない、か?」


 リリーが飲みこんだ言葉を、エドモンドが片頬にのせた笑みと共に口にする。


「『聖女にしたい娘』を聖女に仕立てるのだ。それくらいの荒技を使わねば、無理は通せない」


「見目は、だいじ?」

聖女リュイソーがジャスパーに向けた大きな目はうるうるとしていたし、髪を包んでいるので顔しか見えないが、顔立ちは可憐だった。と、リリーが説明する。


「最も重要だ」

明白な返事と共にまとめ髪にピンが刺された。地肌に当たったらしい。


「痛かったか?」

「少しも」


 出来あがりと見て、すかさずロバートは鏡を差し出した。高い位置に「クマのお耳」がついた。


「かわいい」

リリーがにこりとする。首筋があらわになったことで、汗もひくだろう。



 ロバートの用意した箱から、エドモンドが白いリボンを選ぶ。金の糸で刺繍の入ったそれは、聖女っぽいと言えば言えなくもない。


 真面目に報告したリリーへのご褒美と、ロバートは解釈した。そんな小さな配慮は、可愛らしい聖女には伝わらないだろうが。


「そう言えば」

なにか大切なことでも言い忘れたかのように、リリーが切り出す。


「私の真珠の首飾りを、欲しそうに見た」

「それは特筆すべき事項だな」


 エドモンドが笑いを堪えているのに、リリーは全く気がつかず深刻そうに「でしょう?」と返す。


 今日も平和で何より。

ロバートはお茶の支度に取りかかった。


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