王国の聖女と平民の学院生・3
着席して礼拝に参加するのは初めてだと、リリーは今更ながら気がついた。いつもは裏方を手伝っていて、時間に追われていたから、お説教をまともに聴いた事がなかった。
「聖職者は顔が良いか声が良いに限る。双方良ければ言うことなし」と、昔ご近所にいたおばさん達が話していた。子供のリリーは「お話の内容はいいのか」と疑問に思っていたけれど、今日初めて本当にそうだと実感した。
今日の方の場合、目を閉じて聞いた方が断然いい。
聞きながら、この場所にはいない坊ちゃまエドモンドに事後報告をするため、そっと辺りを見回す。
リリーがかつて住んでいた地域とは、集う人々がまるで違う。地域によって生活の格差は大きい。そのなかでも気後れしないのは、隣にいるジャスパーと真珠の首飾りのお陰だ。あとスコットも。
教壇に目を戻す。祭服を着た司祭の脇に立つのが聖女だろうと、見当をつけた。白色のケープドレスのような服で髪を覆うベールも白い。整った顔立ちに少しも変化しない微笑を貼り付けた女性は、リリーよりいくつか年上に見えた。
リリーの持つ知識では、聖職者の場合黒服は日常的なものだ。地位の高い方や大きな儀式には赤色や紫色などが着用される。中でも白色は特に高位の方々しかお召しにならない。聖女が白を着るのは、位の高さの表れだと思われた。
宗教界こそ男性優位であるのに、聖女は別枠らしい。
礼拝に続いての茶話会に出席する。参加費は不要でも「お気持ち」なるものがある。つまるところ寄付だ。
「相場があって、聖女がいらっしゃるとドンと上乗せするのが常識らしいよ」と、スコットはこの手の話に強い。
「案内される卓の位置も、身分や寄付の額による総合的な判断だ」と説明するのもスコット。「世の中、金、金」とリリーにだけ聞こえる声でこっそりと呟いたのには、笑った。
いるだけで最上級の扱いを受けるジャスパーは、気にしたことなど無いのに違いない。
茶話会のはじめに紹介されたのは、先ほどリリーが注目した女性で、やはり聖女だった。名はサンドリーヌ・リュイソー。
異能で落としてもらった王国の貴族名鑑とリュイソーの名を照らし合わせる。聖女派として知られた貴族だ。かつては反王家派と目された家でもある。
「何を考えていますか、アイアゲート」
卓にはジャスパーに挨拶をしてきた学園生らしき貴族子弟も数人同席している。彼らに聞こえないよう声を落としたジャスパーに、リリーも合わせてヒソヒソと答えた。
「不思議だなって」
何が。目の動きだけで問われる。
「聖女から何の力も感じないの。もっとこう、伝わるものがあるかと楽しみにしていたのに」
自分は精神系の使い手だと悟らせない術を施しながら、率直に述べるリリーにスコットが呆れたように言う。
「結構失礼だよね、アイアゲート」
そう? リリーが反論しようとスコットに目を向けると、席を順に回っている聖女と視線が交差した。




