王国の聖女と平民の学院生・2
真珠の首飾りをつけていく場。それは公都で最も歴史ある教会で行われる礼拝と茶話会だった。
規定の服装は黒色の上下。ジャスパーは慣れた様子で礼服を着こなしているが、スコットは肩のあたりが窮屈に思えるらしく、しきりに腕を動かしている。
リリーは用意してもらった黒色のデイドレスに丈の短い衿なしの上着を着て、真珠の首飾りをした。衿ぐりにピタリと沿う真珠は上品な美しさだ。
馬車に乗るのに手を貸してくれながら、ジャスパーが輝きに目を止める。
「素晴らしい真珠ですね。『良い真珠は鏡のように映る』と祖母から聞いた事がありますが、本当に景色が映り込んでいます」
つけている自分では見えない。「そう? ありがとう」とだけ返しておく。どうしたのか、とか、誰から貰ったのかと聞かないのはスコットも同じだ。
「清廉なあなたに、良く似合います」
「ジャスパーは、いつも通り素敵だわ。スコットも」
セイレンがよく分からないけれど、後でおじ様に聞けばいい。ありきたりな誉め言葉しか返せないのが、申し訳ない。
坊ちゃまが「お前はキレイしか言わない」と鼻で笑う表現力のなさは、そろそろなんとかしなければとリリー自身も思うところだ。
「僕はジャスパーのついでか」
スコットのボヤキに笑いつつ教会へと向かった。
聖歌隊は聖歌のみを歌うのかと思っていたら、寄付集めの為に民謡なども積極的に歌う教派もあるらしい。各地を巡業のように訪れるというから、驚きだ。布教活動の一環なのだろう。
リリーの着いたのは、残念ながら「天使の歌声」と称賛される聖歌隊が滞在しているのとは別の教会だった。ここには、王国聖女派の聖女が来ている。
「ねぇ、ジャスパー。聖女ってどんなお仕事なの?」
坊ちゃまから「聖女が公国へ来ることは、滅多にない。稀な機会ととらえて、よく観察して様子を聞かせてくれ」と言われている。
「私も詳しくはありませんが」と前置きした上で、ジャスパーが話し始めた。
「『聖女』というのは役職というより、敬称です。『奇跡を起こした実績』がある事が前提となり、調査と手続きを踏んで認定されます」
が、と声をひそめる。
「王国では聖女は大変名誉あるものです。聖女を多数輩出する一族などは、実力とはまた別の力関係が働いているとも噂されています」
聖女の起こす奇跡が、どんなものなのか。
「『癒しのわざ』と聞きますが、そのあたりはオーツ先生に聞くべきでしょうね」
リリーが「異能とどう違うのか」と聞きそうな気配を察知したらしく、先に言われた。




