王国の聖女と平民の学院生・1
必要性の低い知識のひとつであるが。
公国に「聖女」はいない。存命する聖人もいない。騎士と同じく古き良きもの、歴史や文学の中に存在するものだ。
対して隣の王国では。聖女と聖人、そして騎士も現在進行形で存在し、一般によく知られている。ありふれたものではないが目にする機会はある、といったところだろうか。
聖女は自己申告ではなく、聖女派の教会から認められて初めて「聖女」となる。本山は王国内にあるが、自治区扱いで王家の力も及ばないとされる。
その聖女とは別に「聖人」がいる。聖人は男女を問わず、こちらは国教派が任命する。女性でも「聖人」と呼び、聖女とは呼ばない習わしだ。
王国内において、聖女派と国教派はかつて激しく対立した。国教派の最大の支援者は王家。聖女派が権勢を誇るのを嫌い国教派を盛り立てた経緯がある。
国同士の対立でなくとも、宗教間の対立もまた根深いものだ。
「融和をはかる為には対話が必要」という理由で、数年に一度、国と教派をこえた会議が開かれるようになったのは近年のことだ。
「ここまでは、大丈夫?」
予備知識として説明するリリーの前で、「どうにかね」とスコットは小難しい顔をした。もう聞きたくないと思っているのが、ありありと伝わる。
宗教会議は坊ちゃま曰く「年寄りがくどくどと同じことばかり話すので、少しも面白味はない」らしい。
皆のお目当ては、公都各所で催される宗教的な儀式のほうだ。名高い聖歌隊や聖楽隊が来ている教派や、聖騎士を伴って参加している教派があり、お祭りのように人が集まる。
そのうちのひとつに、学院理事のエドモンドが生徒代表としてリリーとジャスパー、スコットが入場できるよう手配してくれた。
「それにしても、どうして僕?」
マクドウェル様とか他にも適任者はいるよね? と不思議がるスコット。
「宗教に金はつきものだ。ポロック家は金を転がす事に長けているから、出ておけばいずれ役に立つ」
エドモンドは、リリーにそう言った。スコットはスコット・ポロックがフルネームだ。そして次にはこう言った。
「当日は、侯家も私も他行事に出ている。馬車をまわせない。ポロックなら融通するだろう」
つまりは「足の確保」だ。どちらを伝えようか迷って「宗教はお金になるから、スコットが今後お商売するのに、顔を売っておくといいって」とリリーは説明した。
おそろしく俗な言い方になり、坊ちゃまの言った事とは少し違う気がするけれど、スコットが納得顔になったから良しとする。
スコットのお父さんは、「ウチの息子が生徒代表とは、信じられない快挙だ」と喜んで、快く馬車を出してくれた。全て坊ちゃまエドモンドの思惑どおりになったのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
「聖女」の設定について、くどく説明致しましたが、流し読みで差し支えありません。
「聖女」と「女性聖人」の二種がある。それだけです☆
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この後も引き続きお楽しみいただけますように☆




