ジャスパーとスコットの男子会・1
ジャスパーはスコットに誘われて、遊戯室にいた。週末の今日、他に人はおらず静かなものだ。
玉突きをしカードゲームに移る合間、ひょっこりという感じで、ノックもなく扉が少し開き顔が覗いた。
注目する先にいたのは、頬を湯上がりのようなピンクに色づかせたアイアゲートだった。
普段より潤んだ瞳をキラキラとさせ、いつもはまとめている髪も洗い髪のようにおろしていて、雰囲気が違う。
「まだいて良かった」
紅い唇が、きゅっと笑みを結ぶ。
「入ってきてはいかがですか」
ジャスパーの声がけに、「お邪魔します」と答えて、アイアゲートが身体を滑り込ませた。
金曜の放課後か土曜の朝に家に帰る事が多いが、今週は寮にいるらしい。アイアゲートの保護者が多忙になるような大きな行事があっただろうかと、ジャスパーは改めて同級生を眺めた。
目を凝らせば透けそうな素材のスリップドレスに、レース編みの丈の短い上着をはおっている。腰のくびれから脚にかけてのラインがはっきりとわかり、ジャスパーは眉根を寄せた。
「はい、差し入れです」
アイアゲートが後ろ手に隠し持っていた物を、スコットに手渡す。見ればワインだった。
「え!? どこから持ってきたの?」
スコットが驚いた声を出す。
「内緒……にする必要もないから、教えてしまうわ。頂いたの」
アイアゲートがあげたのは、理科教師の名だった。うふふと機嫌が良く、鼻歌でも歌いそうな雰囲気だ。気分に波のない性質でいつも楽しそうにしているが、これはおかしい。
ジャスパーはふたりの間に割り込んだ。スコットが一步二歩下がる。
「アイアゲート」
名を呼ぶ。
「なあに、ジャスパー」
いつもよりあどけない表情で、お返しとばかりに呼び返す。
確信を持って両手首を握り引きよせると、簡単に胸に倒れ込んで来た。やはり、おかしい。脇からスコットの「うわっ」という声がする。
それに構わず、大人しくしている同級生の耳にささやく。
「アイアゲート、飲みましたね。それもかなり」
身を近付けて分かるアルコールの匂い。ピクリとピンクに色づいた頬が硬直する。
姿勢を正して見おろすと、アイアゲートは悪びれる風もなく笑んだ。
「うふふ、少し・よ」
嘘をつけ。アイアゲートがかなりの酒豪だと、ジャスパーは知っている。その彼女がこれほど上機嫌なのだ。自分とスコットしかいないとはいえ、この態度は素面では有り得ない。
「先生と飲みましたね」
意図せずして低くなった声で、手首を離さないまま問う。
「それも二人で」
アイアゲートの笑みは、少しも変わらない。
「ひっ」という小さな悲鳴は、スコットだった。




