毛玉の告白・4
ジャカランスの恋人は、対外的にはきっちりと音楽講師として接してくる。使用人と貴族との中間という難しい立場も、苦にしていないように見えた。
使用人は皆ポールの父親はジャスパーという態度をとる。もはや信じているかもしれない。
「乾物屋さんなんだけど」
アイアゲートがいきなり切り出した。彼女にはこういった唐突なところがある。ジャスパーは次を待った。
「一人娘にお婿さんをとったんだけど、お婿さんの体型がぽっちゃりで、乾物屋のおじさんにそっくりだったの。よく働くところも同じで」
言って乾いた唇を素早く舐める。ちらりと舌が見えた。
「五年もしないうちに、みんなお婿さんだった事を忘れちゃって『乾物屋の息子とお嫁さん』になってたわ」
それで、と思いながら待つジャスパーに続きはなかった。話はそこで終わりらしく、語った当人は満足げにしている。「だから?」と聞きたい気はあるが、ここで終わるのが彼女だ。これで慰めているつもりなのだろう、たぶん。
「その乾物屋は、まだありますか」
「もちろんよ。おじさんひとりだったのが若い労働力が増えたんだから、繁盛してるわ――きっと」
「きっと」と付くのが可笑しくて、ジャスパーは口元を緩めた。合わせて照れたようにアイアゲートが早口に言う。
「今度トムの所へ行ったら、ついでに見てくる」
トムは誰。
「ホープは潰れないから、そうやって握るといいわ。ふわふわしたものは心にいいのよ。大人も子供も男女も問わないって、オーツ先生が言ってた」
言われてジャスパーが手元を見ると、毛玉を押し潰していた。力を緩めれば元の形に戻る。
ニコニコとする同級生に覚えるのは、ジャカランスに向けた事のない感情だ。ずいぶん前から自覚していた。欲してはならないもの。
自分にジャカランスがいて、彼女の後ろに殿下が見え隠れするのは幸いだった。それでようやく禁忌は絶対の禁忌となる。
「私のお話も聞く?」
今度は私の番とばかりにアイアゲートが身を乗り出す。
「いえ、次の機会にします」
即座に返すと「ヒドイ……」とガッカリされた。
「そんなに気に入ったのなら、もうひとつ持ってくるわ。『少し減らせ、どこかに配れ』と言われているから」
この毛玉のことらしい。
「いえ、このひとつで充分です」
本当に大切なものは、ひとつでいい。気持ちが伝わらず、拒絶と取ったアイアゲートが「またヒドイ」と恨みがましい目を向ける。
ひとつだけ確かめたい事がある。
「アイア、この毛玉は本当に何の効果もないのですよね」
不思議そうなアイアゲートに重ねて尋ねる。
「例えば、自白効果など付加したりは」
「それもヒドイ!」
憤慨するアイアゲートに、ジャスパーは珍しく声を立てて笑った。




