毛玉の告白・3
「ジャカランスの入れ込みぶりは、目に余るほどだった聞きます。その頃には、他家から養子を迎えるより身内の私でいいのではないか、という流れになっていたそうです。異能持ちでもありましたし」
「私が今同じ十七だから、それより八歳下だと九歳ね。九歳のジャスパーは良く出来たお子さんだっただろうし、絶対にかわいいと思うけど……」
アイアゲートが語尾を濁す。そろそろ婚約を考える歳頃の女子にとって、九歳など男の内に入らないのは当然だと、ジャスパーも思う。今だって年の離れた遠縁の子としか思っていないだろう、ジャカランスは。
ごめんなさい、先を。アイアゲートが優しく促す。
「子供を作る事は控えるよう親は言い含めていたようですが、出来た。私が入学する前です。侯はひどく腹を立てているように見えましたが、私の父は違った。『これで盤石だ』と口走りました。万が一ジャカランスが駆け落ちしても私が次期侯爵、このまま結婚しても次期侯爵ですから」
年若い女性には眉をひそめたくなるような話だと思うのに、アイアゲートは難なくついてくる。聞き上手なのか、彼女の育ってきた環境では、ある話なのか。ジャスパーは次の質問を待った。
「ジャカランス様の恋人は、今は?」
遠慮なく聞かれても、嫌な気分にはならない。
「そのまま侯家専属の音楽家として、領地の城館で暮らしています。気性の激しいジャカランスと上手く付き合っていて、子供も順調に育っています」
「その子のこと、ジャスパーはかわいい?」
「数度会いましたが、愛らしいと感じます。小さな子は皆可愛いですが」
「音楽の先生に妬いたりは?」
アイアゲートの目に光の筋が入る。角度によって現れる輝きに束の間見惚れて、ジャスパーの返事が遅れた。
嫉妬。今の今まで考えもしなかった。ジャカランスの態度は昔から何一つ変わらない。
「ないですね」
「それは、心が安定していていいわね。嫉妬心はよくないのよ。特に男同士はすぐに刃物沙汰になるから」
赤毛の同級生は、世慣れているかのように知った口をきく。これもまた見聞きして育ったのかもしれない。
彼女を常識知らずだと裏で笑う貴族の子弟もいたが、着の身着のままで追い出されたとしたら、彼女の常識以上に自分の常識が通用しないと理解すべきだ。
「それでジャスパーが嫌じゃなくて困らないなら、二人は良い関係だと思うわ」
慰めるでもなく、しみじみとアイアゲートが言った。




