表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

301/560

毛玉の告白・2

 入学当初より確実に美しくなったアイアゲートの髪は、手入れも行き届いて艷やかだ。ジャスパーは、アイアゲート自ら髪を切ってしまった日を思い出した。


 他人事として介入をためらった自分への戒めとして、あの日の衝撃は忘れないでいる。そんな事を考えていたら、目つきがきつくなったのか。アイアゲートが小首を傾げた。


「カミラも来年婚約しそうですか」

とっさにカミラを話題にしたのは正解だったようで、アイアゲートが目を輝かせた。


「それは、夏のお祭りか、二月の愛を伝える日か、三月の卒業パーティーで、『これから先も君の隣にいるのは常に僕でありたい』とか『君の瞳に生涯僕だけを映して欲しい』とか、スコットがカッコよく言うんでしょ。できれば私のいる所でして欲しいわ」


 そんな気障なセリフをアイアゲートがどこで仕入れたのか定かではないが、現在スコットは幸せな悩みを抱えている。

先日も「あ―、どんな風に決める!? 一世一代だからね」と叫び、ついでのように「ジャスパーは、どうした? 彼女はどんな人?」と聞いてきた。


 大人が決めた縁組なので、スコットが期待するような話はない。婚約も確認の為の形式的なものだ。それでもスコットが聞きたがるなら、アイアゲートも興味があるかもしれない。 



「ジャカランスは」

毛玉を両手で包んで、ジャスパーは婚約者の名を出した。


「彼女は一族の集まりに参加するひとり、でした。少なくとも私にとっては、特別だったことはありません」


 アイアゲートが身体をこちらへと向けた。それだけで聞こうとする姿勢が伝わる。


「私が五歳で彼女が十三歳、彼女について記憶している最初はその頃です。私から見れば彼女は充分に大人でした。さすがにまだ、私が婿入りなどという話は出ませんでしたよ」


「それはそうよね」

だって五歳だものね。アイアゲートが同意する。 


「彼女が十七歳の時、侯は娘のために王国から音楽講師を招きました。かつて神童と呼ばれた彼は、その頃には才能ある若手音楽家のひとりだったそうです。作曲家でありピアノ演奏家の彼に、ジャカランスが夢中になるのに時間はかからなかった」


そんな事を子供が知るはずもない。ジャスパーも成長してから聞いた話だ。


「『ジャカランスのために』と曲まで捧げられては、なびかない女性の方が少ないかもしれませんが」


 好奇心もあらわにうずうずしているアイアゲートは、質問したいのだろう。その様子が可愛らしく思える。ジャスパーは「どうぞ」と目で促した。


「見た目はどんな先生なの?」

「意思の強い目をした芸術家です。彼がピアノを弾くと明らかに音の厚みや幅が変わる。別の楽器に思えますよ」


「おうちの方は止めなかったの?」

「グレイ家は、というより貴族の家は親と子では生活時間も違います。気がついた時には、そういった仲になっていたようです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ