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公国杯の売り子・7

 またお客がひとり入ってきた。今度は初老の男性だ。どうやら隣国から来ているらしく、ジョシュの父に話しかけた。


 話し相手のなくなったリリーが、そこらをまわって他の店からヒントを得ようかと考えていると。少し離れたところを歩くイリヤを見つけた。


 乗馬服の胸にキラリと光るものがある。目を凝らせば、リボンのついた小さな金色のメダルだった。優勝者に贈られるものかもしれない。


「イリヤ!」


 リリーはためらわずに大きな声で名を呼んだ。キョロキョロと辺りをみまわす彼に再度呼びかける。


「ここよ、ここ!」


 木箱のイスに座ったまま指先を小さく振ると、視線を下げたイリヤが二三度瞬きをした。


「ひょっとしてアイアゲート?」


 その驚きようは何。少し考えて思いだした。今日は「らしさ」を消して、装いから「富裕層のお嬢さん」っぽくしていたのだった。会うときはいつも制服姿なのだから、それだけで見違えたらしい。


「イリヤのレースを見に来たの。優勝おめでとう」


 見ていたのがゴール横ではなかったせいで、発表まで負けたと思っていた事は言わない。座ったまま祝意を述べて、自分の向かいに座ってと誘った。



 乗馬服は目立つ。先ほどのレースの優勝者が立ち寄った店となれば、これもいい宣伝だ。「この機会を逃してはならじ」という熱意を隠して軽い調子で席をすすめ、イリヤを座らせる事に見事成功した。


「ご主人。イリヤは、新人賞を勝ち取ったのよ」


 すぐ脇でやり取りを見守っていたジョシュの父親に、イリヤを紹介する。


「それはそれは。おめでとうございます。よろしければ勝利の酒を差し上げましょう」

「ありがとうございます!イリヤ、乾杯しましょうよ」


 本人が辞退する前に、大きな笑みでリリーが同意する。飲まなくても口をつける真似だけで充分だ。だって宣伝だもの。


 純粋に祝う気持ちのジョシュのお父さんと違って、友人を利用しようとする私の方が計算高いかも。などと考えるリリーの前にも、少し発泡した淡い金色の液体の入ったグラスが置かれた。


「今回持ってきた中で一番の酒で、祝い酒に相応しい一本ですよ。どうぞ」


 リリーは恐縮するイリヤを横目に、グラスの縁を軽く当てて「乾杯!」と声を響かせた。

 マナーとしてはぶつけてはいけないのだけれど、外で木箱に座っている時点ですでに問題外。それよりも楽しげな様子が他から見えれば、これまた集客に繋がるはずだ。



「おいしい」

一口二口飲んだイリヤが率直に言う。


「そりゃあ、勝って飲む酒ですからね」

ジョシュの父親が豪快に笑う。


「いえ、本当においしいです」

性格そのものの生真面目さでイリヤが答えた。


リリーの上に影が落ちる。背の高い人が立ったらしい。


「それ程のものなら、私ももらおうか」

頭上から冴え冴えとした声がして、周囲の空気が一変した。


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