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公国杯の売り子・6

 さすがに小屋掛けに慣れていると本人が言うだけあって、ジョシュの手際は見事だった。


 リリーの提案そのままに店先のワイン樽を積み、余っていた板を渡して、手持ちの白布をかけた。即席の立ち飲みカウンターの出来上がりだ。


 その上に赤ワインを注いだグラスをいくつか並べると、陽光を浴びて白い布にキラキラとした赤い影ができた。色の違いもよくわかるし何より綺麗で目を引く。


 近くの出店で買ってきた干し葡萄とクルミを、いくつかの小皿に盛った。これはグラス売りのワインのおつまみだ。その分ワイン一杯の売り値を高くすれば、損はしない。


「高すぎやしないか」と心配するジョシュの父に「遊びに来て開放的になっているのに、淑女の前で出し渋る紳士はいない。お祭りはお祭り価格だ」リリーはそう力説した。



 別の樽にチーズのカッティングボードをのせて即席のテーブルにする。イスはワインボトルを出した木箱にピクニック用の敷布を畳んで敷いたもの。設えたのは通路ぎりぎりのよく見える位置だ。

 これで舞台は整った。仕上げにとリリーは瓶の周辺に、葡萄の葉を散らした。



 髭面の従業員が前掛けを外し、背中を通りに向ける形でワインを飲む。騙すようではあるが、客のいない店には入りにくいものだから、これくらいは許されたい。


 さらに、リリーが木箱のイスに腰掛け、ジョシュの父がその隣に立ち、ワインボトルを片手に「試飲している女性にワインを語る気さくな店主」の図を作った。


 店の「男くささ」を減らすため、ジョシュには買ってきたチーズを切ったりなどして、通る人を目で追わないようにしてもらう。一番体格の良い男性は少し控えて、お金のやり取りなどを担当することとなった。



 レースはまだ始まらないらしく、通行人の減る気配はない。そのうち、ちらりとリリーを見る人が出始めた。「あら、目が合ってしまったわ」という風に親しみを込めて軽く目礼すると、二人連れの紳士が立ち飲みカウンターまで行き、硬貨を渡してグラスを手に取った。


 この午後初めてのお客だ。

ひやかし客なりとも店先にいれば、誘われるように人が寄る光景は、市場でもお馴染みのものだ。

 あとは客足が途切れないよう、接客の長さを加減すればいい。


 小売りの店なら小屋掛けも市場もそう変わらないだろう、そう考えて提案した策が当たって良かった。と、顔には出さずにリリーは安堵した。


 花市で花冠を売った時も一番の売り上げだったのは自分だ。やるなら稼ぎたい。まだ何かないだろうかと欲を出しつつ、リリーは行き交う人を眺めた。


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