公国杯の売り子・5
リリーは勢いに対抗するために、くいっと顎を上げた。
「原因それは……皆さんからの『圧』です」
分からない顔の大人を傷付けないよう言葉を選ぶ。偶然出会った小娘に意見を聞きたいほど困っているのだから、まさか怒りはしないと思うけれど。
「お客さんが少ないとおっしゃいましたね。他のお店は見たところ、女店員さんも一人や二人はいるようです。が、こちらは大人の男性ばかりが四人です」
まだ揃って「そうだけど、なに」と言いたげな顔をしている。おじ様ならすぐわかってくれるのに、ちゃんと説明をするのは大変だ。リリーは花売りをしていた時の愛想笑いを久しぶりにしてみた。
「皆さんとても男らしくて素敵なのですが、広くはない場所に男性ばかり四人もいらして、通る人をじっと見ていると……近寄りがたいのです、特に女性は」
「思う」ではなく、言い切りにした。それでも言葉を選んだつもりなのに、ジョシュを始めとして全員、大きな衝撃を受けたようで、アワアワとしている。
売り場を工夫して頑張っていたのに、自分達のせいで人が寄り付かないなどと指摘されたら、そうもなるだろう。しかし伝えなければこのままだ。リリーは腹をくくって続けた。
「淑女が近寄りたがらない場所に、紳士が足を向けるでしょうか。いいえ、向けません。なぜなら紳士は何より淑女の意向を優先するからです。もうおわかりですね? お店選びの決定権が誰にあるのか。それは淑女にあるのです!」
分かってもらおうと思ったら、なぜか弁論大会のようになってしまった。自分でも少しおかしい自覚はある。
これで理解されないなら、後はどう伝えたらいいのかと頭を悩ますリリーの前で、ジョシュがうめく。
「なんてこったい。むさ苦しい俺たちが、いけなかったなんて」
――むさ苦しいまでは、言ってない。
ジョシュの父が天を仰ぐ。
「こんな事なら、身重でもジョシュの嫁を連れてくればよかった」
――妊娠中の女の人に無理をさせてはいけません。
リリーの思いをよそに、男四人がうなだれる。見ていると、自分が悪いわけではなく正直に思った事を言っただけでも、リリーの方こそ申し訳ない気分になってくる。
せっかく今日のために遠くから自慢のワインを運んで来たのだ。何かできることはないだろうか。ある物でなんとか……
「ジョシュさん。ダメでもともとで、ひとつ試してみませんか」
リリーが遠慮がちに言った途端、バッと音がしそうな勢いで期待に満ちた目が向けられた。気圧される。
だからそれがいけないんです……とは、必死に呑み込んだ。




