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公国杯の売り子・4

 新人戦。イリヤは馬群のなかほどに位置を取り、最終コーナーを過ぎてから追い込みをかけ順位を上げたものの、差しきれず、ずっと先頭を走っていた馬に逃げ切られた。


――と、リリーには見えたが、なんと逃げ馬に鼻差で勝ちイリヤが新人賞をさらった。

 ゴール前の貴賓席なら真横から見られる。勝ったとわかっただろうが、馬のお尻から見ての鼻差なんてわからない。


 それでも大歓声のなかぐるりとコースを回るイリヤの笑顔は、はっきりと見え、リリーは惜しみない拍手を送った。


 ここから公国杯まではかなりの時間がある、と隣にいた人の会話で知る。

 少しお腹も空いてきた事だし。その間に、親切にしてもらったジョシュのお店へ顔を出すことにした。






 


「言った通りでしょ」

「ですね」

お客の一人もいない店先で、ジョシュの嘆きにリリーは頷いた。


 ワイン樽をいくつか置き、瓶詰めのワインがずらりと並べてある。さらにワイングラスや葡萄の葉が主張するので、ワインを売っている店であるのは一目瞭然。清潔感もあり、リリーのいた市場の店よりよほど上品だ。


正直、人が寄らない理由が見当たらない。


「娘さんから見て、どこかおかしなところがあるかね?」

ジョシュによく似た父親も困り顔だ。


 リリーは首を伸ばして、立ち並ぶほかの出店と比べてみた。

 馬具の店、花屋。ここに来てから買う人がいるとも思えないのに、帽子屋にも数人の客がいる。どこも暇つぶしに見ているだけかもしれないが、それなりに賑わっている。


 ジュースを出す店には行列。パンを売る店など、店先の商品が見えないくらい人がいる。


 振り返ってジョシュのお店。がっしりとした体躯のジョシュ。さらに日焼けした太い腕がたくましい父親。濃い色の前掛けに革手袋をした髭面の従業員、三人より一回り体格の良い短髪の男性が、揃って期待した顔でリリーを見る。


 さすがに気圧されそうになって、ひらめいた。原因はおそらく……間違っていないと思うけれど、言いにくい。


 リリーが言葉をのんでゴクリとすると、合わせて四人がゴクリとする。言わなければ済まない雰囲気が重い。

「わかりました」


「おおうっ」

「わかったのか!?」

「なんとっ」


 口々に叫び前のめりになる。待って待ってと手で合図し、少し距離を取る。期待に輝く目が怖いくらい。本当に言い辛いけれど、間違っていないはずだと確信した。


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