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公国杯の売り子・3

 しばらく公都に滞在して取引先を探したいと話す青年は、主にワインを扱う卸商の息子でジョシュと名乗った。二十四才で父と従業員との四人で来ているという。


彼と話しながら通るゲートはチェックもなかった。


「俺は昨日から数え切れないくらいここを通ってるからね」


 今も荷馬車まで飾り付け用の葡萄の枝と葉を取りに行ったところで、「途方にくれた様子の娘さん」を見かけて理由にピンときて声を掛けた、と笑顔になる。



「でも、大丈夫? こんなに人がいるけど、友達は探せそう?」


 入ってすぐのところで立ち止まり見回すジョシュにあわせて、リリーもぐるりと頭を巡らせた。


 コースは想像していたより長く、観客席も人であふれていた。快晴で心地よい風が吹いているので、圧迫感はない。ちょうどレースの合間らしく、華やかながらものんびりとした雰囲気で、次がイリヤの出る新人戦のはずだ。


「友人のひとりが、次のレースに出るんです。なので邪魔にならないところから観戦します」

連れて来てくれたお礼と共に説明する。


「それはすごいね。勝てるといいね。俺は店にいるから、レースが済んだら寄ってよ」


 あっちだよ、と指さした一角には、小屋や天幕がいくつも並んでいるのが見て取れた。


「お仕事の邪魔になりませんか」と問えば、王国のワインは知名度が低く、近寄るのは同国人くらいでとても暇なのだ、と肩を落とす。


「ではお言葉に甘えて、後で行きます」

 重ねてお礼を口にすると、ジョシュはうんうんと首を縦に振り、左手に葡萄の枝と葉を持って去って行った。



 今リリーがいるのは、最終コーナー側の入口。右手には、他より数段高くして真っ白い大きな天幕が張られていた。赤い絨毯の上には屋外とは思えない豪華なテーブルセットがあり、そこだけ別世界だ。


 この観客の多さでは必要ないとわかっているのに、リリーは気配を殺して、そっと天幕の内側に目を凝らした。


 金色の髪、ダークブラウンの髪の向こうに、ミルクティー色の髪を見つける。


 扇で口元を隠した御婦人と何やら話しているのは、社交用の微笑を浮かべた坊ちゃまエドモンドだった。


 着飾った人の間にいてもエドモンドは目を引く。姿を見れば、ここまで薔薇が香るような気さえした。昼の正装姿も惚れ惚れするほど格好が良い。


 気付かれないように、リリーは天幕からは視えない角度に身をおいて、周囲の人同様浮き立つような気持ちでイリヤの登場を待った。


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