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貴公子の部屋を羊が埋め尽くす・3

エドモンドが指摘する。

「先頃、グレイ家を訪問していたか」


 グレイ家後嗣ジャスパーが、妻となる女性を友人にお披露目するという名目の会だが、実のところ卒業後も付き合うだろう顔ぶれを侯が確かめるだけのものだ。その証拠に、ジャカランス嬢は出席しなかったと聞く。


 リリーが実力で「侯爵家後嗣の友人」の立場にあるのは、ロバートにとっても誇らしい。

にもかかわらず様子がおかしいというなら。


「不安の裏返しか」

口にしないロバートの考えをエドモンドが引き継ぐ。


「今日のお嬢さんは、ただ楽しんでいらっしゃるとお見受けしましたが」

できる限り声をひそめ、そう返した。



「今日坊ちゃまが刈った毛で、ラックのお友達をたくさんたくさん作る!」と宣言し「部屋に置ける程度の数にしろ」とエドモンドに厳命された今日のリリーは、正直に言えば、ロバートの目にもはしゃぎ過ぎているように映った。


 無理もない。今は五月で来年の三月には卒業する。卒業と同時にジャスパー・グレイは結婚し、それぞれ皆勉学を続けるなり仕事に就くなりして、環境が変わる。


 この機に婚約する女子は多い。カミラ・シーゲルもスコット・ポロックと婚約するだろう。後に解消する事がないとは言えないが、よく知っている男性に嫁ぎたいと考えるのは自然だ。


 学内外でそんな話を見聞きすれば、我が身に置き換えて気持ちが波立つのは、もっともだと思われる。

が、ここでそんな話を主従でしても解決はしない。


 先刻承知でエドモンドとの関係に踏み込んだリリーは、聞けばあの笑顔で「考えても仕方ないわ」「私の考えることじゃないもの」と言いそうだ。ロバートは痛ましく思った。



「……もっと『かわいい』と言ってやった方がよいか」


は? と、間の抜けた声が出そうになり、頬を引き締めるロバートにエドモンドが言葉を重ねる。


「暖かくなるとコレは途端に懐かなくなる。くすぐってやる機会も減ったが、もう少し撫でるなりして構ってやるべきか」


 ズレている、と思うロバートの向かいに座るエドモンドは、どこまでも真顔だ。

――会うごとにもっと親密な行為をなさっておいでですから、それは違いませんか。と言うわけにもいかない。


「私としては不本意だが。これが『こうさん』と叫ぶまで、くすぐってやるか」


 言いながら、もう指ですいっと顎下を撫でている。眠っていても感じるらしく、リリーが首をすくめ「うふ」と息を漏らす。



そうでは無い。断じてそうではないが。

「そうなさいませ」

ロバートもまた真顔で頷いた。気分転換にはなるかもしれない。


 帰宅したらまずは、夕食の肉料理が羊でない事を確かめ、食事より先に何か甘いものを届けさせよう。

 視線を戻すと、エドモンドは目を閉じていた。話はここで終いという意思表示だ。


 ふとタイアン殿下の侍従長ファーガソンの顔が浮かんだ。しばらく会っていない。夏以降の予定を確かめなくては。ロバートは、頭の中の「すべき事リスト」に一行加えた。


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