貴公子は白いウサギに開き直る・5
リリーの全身は、見るからに柔らかな白いタオルに包まれ、頬は美味しそうにすら見えるピンクに色づいている。
「かわいい? お耳」
ピコピコとウサギの耳を持って動かすリリーが、恐る恐る聞く。
エドモンドがぐっと言葉に詰まる。
「坊ちゃまはウサギが嫌い……」
リリーの手放したウサギの耳が、だらりと垂れ下がった。まるで沈む気持ちを表現したかのようだ。
見ているロバートまで心が痛む。
「嫌ってはいない。――これより可愛いウサギは見たことがない」
まだ潤んでいる目で見上げるリリーに、エドモンドが諦めたように淡々と口にする。
聞いていた会話に驚く家令ロバート。そして思い出す。若き主の開き直った時の振り切れ方を。
「ウサギは小さなのが、かわいいのよ。私は大きすぎるわ」
なぜか申し訳なさそうに口にしたリリーに対し、小さな背に回り髪を小分けして裾の方から櫛を通すエドモンドがきっぱりと言い切る。
「いや、可愛さならばここにいるウサギが世界一だ」
「……坊ちゃまは、一番が好きなのね」
リリーが感心したように口にする。
「そう言えば『ウサギは嫌いか』と聞いて、嫌いと言われたらどうするつもりだったのだ」
暖炉からの暖かい空気を髪に含ませる手を止めずに、エドモンドが思い付いたように聞く。
「鹿にしようと思ったの。玉ねぎの皮で茶色に染めてウサギのお耳を短くすればいいから」
「なぜ、鹿」
エドモンドの疑問は、ロバートの疑問でもある。
「よくあるのはウサギの他は羊でしょう? あとは鹿か豚。豚より鹿の方がいいかなって。私がトムのお肉屋さんで見るのはそれくらいだもの」
言いながら小さなあくびをかみ殺すリリーの後ろで、エドモンドの手が止まった。
「生きているウサギや鹿をご覧になった事はないのかもしれませんね。お嬢さんは」
田舎と違い町中ではウサギは跳ねていない。ロバートの呟きにエドモンドが即答する。
「そのようだな。教育が片寄っている。早急に何とかせねば」
そもそも「教育」と言える程のものを受けているとは思えないが、今言うことでもないだろう。ロバートは自分の仕事に戻ることにする。
「トムの所には時々、ニワトリと別に鳩と鴨もいるのよ。あとウズラも」
リリーの声はもうたっぷりと眠気を含んでいる。
「――それならば、リスの方が似合うのではないか? 鳥が良いならインコの黄色などお前らしいと思うが」
鳩のバスローブ。そしてウズラのバスローブ。
主従は同じものを思い描いたに違いない。
トロトロとしたリリーは今日は前ではなく後ろに倒れ、エドモンドを背もたれにしている。
若き主は脚の間にリリーを座らせるようにしているが、お互い嫌でないのならこれでいいのだろう。
ロバートは口出しを控えた。
「ロバート」
箪笥にあれこれ詰めるロバートをエドモンドが呼んだ。
「はい。エドモンド様」
「コレに黄色のバスローブを作れ。インコのような」
――ひよこ。ヒヨコの黄色では駄目なのでしょうか。インコの黄色など思い出せもしませんが――
ロバートの仕事は増えるばかりだ。
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