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迷路の迷子・5

今日の殿下は初対面だと思っている感じではなかった。


 見学会で占い師の真似事をしていた時は、オーツ先生独自の美意識からくるアイラインで囲んだ目しか見えなかったはずでも、制服と声で迷子があの占い師だとお気づきになったか。


それなら先に申し上げるべき事がある。

「バラをありがとうございました」


 家族を恋しがっていると誤解して「慰めに」と挿していた紅い薔薇を下さった。緊張と重圧に耐える生活に、薔薇の香りは懐かしさを運んでくれた。


しばらくの間をおいて、殿下が呟く。

「占い師も君か」


 リリーの足がピタッと止まった。勢いよく振り返る。

「お気づきではなかった?」


殿下がゆるりと肯定する。

「仮面舞踏会の『ダンサー』とオーツの愛弟子が同一人物とまでは」


 では「将来」への問いは、占い師ではなくダンサーに向けたものだったのか。妙な沈黙が広がった。


「僕が『ダンサー』だった君に気がついていないと思ったの?」


 大抵の場合、問題は相手が起こすのではなく自分に原因があるような気がする。そして後悔は先に立たないものだ。リリーは小さく頷いた。


「いや、舞踏会の君はアイマスクだけだったから、普通わかるのはそっちだ」


 言われてみれば。遠慮なく正しい指摘するところは坊ちゃまに似ている。リリーはセレスト兄弟に共通する頬から顎のラインを眺めた。


「あのダンスを見ていなかったら、肩に乗せたりしないよ。君はエドモンドの相手をするだけあって、身が軽い上にバランス感覚がいい」


 ダンスを誉められる事がほぼないので、面と向かって言われると気恥ずかしくてつい頬がゆるむ。


「『社交界に出た時にはダンスに誘うから断らないで』と言ってあったのに、君は断ったね。ひどい人だ、僕は愉しみにしていたのに」


 軽くなじるタイアン殿下に、リリーの表情が硬くなった。良くない流れを感じ取る。この手の勘はあまり外れない。


「三回も会えばもう他人じゃない。幸いこの後の予定もないし、食事にでも行こうか」


 リリーの硬くなった顔が固まった。正式なお誘いではなく、あくまでもご提案の形だからお断りは辛うじて許されると思いたい。さっきから足は止まったままだ。


「この後はお茶会で。早く戻りませんと、待たせてしまいます」

リリーは返答を避けて自己都合を主張した。


「大丈夫、遅れている客は誰も着かない」

自信たっぷりに殿下が告げる。


「僕の馬車は紋章が入っている。停まっている間はどの客もこの屋敷に近寄らない。君達の乗ってきた馬車はお構いなしだろうがね」


 客とはつまり貴族をさし、タイアン殿下の語った内容は貴族間では常識だと察した。

 常識は階層によって違うし、庶民は紋章の違いなど気にもとめない。あらゆる機会に育ちは露呈する。


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