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迷路の迷子・4

 暇つぶしをしているらしいタイアン殿下には申し訳ないけれど、戻らないと。遅れて着く同級生は貴族子弟なので、リリーがそれより遅くなるのはなにかと支障がある。


 この後の私の予定もご存知なら、もうお願いしてしまった方が早い。そう考えてリリーはペコリと頭を下げた。


「出口まで行かないで、来た道を戻ろうと思います。おわかりになりますか」

「いや」


 即答に思わず「えっ」と声が出る。どうやってここまで。


「女の子がいるなぁって、何となく追って来ただけだから。まさか迷子とも思わないし」


 セレスト家にはやはり特殊な嗅覚があるのか。そして「こんな狭い迷路で戻るなんて思わなかったから」と、迷子をからかっている。


 これ以上迷っている時間はない。殿下を置き去りにしてでも、生け垣の下をくぐろうとリリーが決意を固めた時。


「大丈夫。先を見れば出口がわかる。ここまで来ていたら、進んだ方が早い」

軽い口調の提案があった。


「この生け垣は、真っ直ぐに見えてわずかに角度をつけてある。それで方向感覚が狂うんだ。でも道順を知っていれば、どうということはない」


 先を見通すと言っても、タイアン殿下の頭より生け垣は高い。身体能力の強化を使って飛び上がってくれるのか。それとも浮けるとでもいうのか。


疑問が渦巻くリリーに「僕に背を向けて」と殿下が言った。


「ほら、早く。君はここを出たいんだろう。僕はいいよ、この後の予定はないし君とこうしているのは楽しい」


 どこまで本気なんだろう。そのまま言葉通りのような気もする、と考えるリリーの肩を掴み、クルッと後ろ向きにする。


 次の瞬間、脚が宙に浮いた。「あっ」と言う暇もなく視界がひらけ、迷路の行方が見える。


「さすがにこのまま歩くのは安定が悪いから、道順を覚えて。そうしたら降ろすよ」


 リリーのお尻は殿下の右肩にのっていた。手で脚を固定し腰を支えてくれているので、少しも危なげはないけれど、言いたい事は山ほどある。でも、まずはここを出るのが先だ。リリーは諸々諦めた。



 頭をぐるりと巡らせれば、入口と出口には他より少し背の高い木が植えられていた。その木から今いる位置までを逆に目で辿ると、半分より少し先まで進んでいたと知れた。


 この先行き止まりがいくつか作られているのでそれを回避して……そんなに難しくはない。確認して「覚えました」とリリーが言うと、ストンと身体が降ろされた。


 案内をよろしくといった態度の殿下の前を、先導する形でリリーが歩く。リリーの急ぎ足と殿下の悠々とした歩みは速さが同じ。

 坊ちゃまと初めて会った日に、近道を案内していた時もこんな感じだった。と、懐かしく思い出すリリーの背中に声が掛かった。


「君は、この先どうするの? 将来への不安はない? 」


 占い師に向けて「寂しい?」と聞いた殿下の声が、耳によみがえった。


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