貴公子は白いウサギに開き直る・4
リリーを包むのは今日出来上がってきたばかりの品だ。
最高に手触りの良いタオル地を入手して仕立屋に持ちこみ、仕立てた事が無いというタオル地のバスローブを作らせた。
真っ白でフード付き。これなら頭から被せておけば、髪に少し残った水分も吸うだろう。ロバートから見ても、リリーによく似合う。
「湯船から出して下さったのは坊ちゃまですから、お礼をお伝えすればいいのでは」
教えて浴室から送り出し、さて片付けをと思うところに。
「なんだ、その耳は。不要だな。切るか」
「やめて。痛いことはイヤ……」
不穏な言葉と怯えたリリーの声がした。
何事かとロバートが浴室を出てみると、肘掛けソファーの前に櫛を片手に立つエドモンドと、自分の耳を両手で隠すリリーの姿があった。
何がどうなっているのか。ロバートが尋ねる。
「エドモンド様、これは」
「坊ちゃまが私に痛いことするって」
訴えるリリーは涙目になっている。
エドモンドの視線がリリーのフードに止まっていると見てとって、ロバートはため息をついた。
「エドモンド様、お嬢さんを泣かせないで下さい。フードにウサギの耳が付いているなんて、ご自分では見えないのですから」
リリーの真っ白なバスローブは、仕立屋の遊び心で、フードに頼んでもいないウサギの耳が付いたとても可愛らしいものだが、エドモンドにはその良さが分からないらしい。
エドモンドの視線を遮るようにしゃがみ、ロバートがリリーの髪の水気を更に吸い取る。
「坊ちゃまの言うお耳は、お嬢さんのお耳ではありませんよ」
ほらご覧ください。鏡を持ちリリーに見せてやる。
自分のフードに付いた長く垂れるウサギの耳に、ようやく気づいたリリーが「かわいい」と、ふわっと笑った。
「さあ、後は坊ちゃまに乾かしてもらってください」
背中に手を添え、先週と同じクッションに座らせる。
「坊ちゃまに出来るの? ウサギのお耳切らない?」
まだ少し不安そうな顔のリリーにロバートが優しく答える。
「たぶん出来ますよ。お耳もそのうち『かわいい』と言って下さるはずです。坊ちゃまは少し見慣れなかっただけでございます」
櫛を片手に立ち尽くすエドモンドに、リリーが期待に満ちた目を向けた。




