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男子会・2

「君が羨ましいよ。これからも彼女といられて」


イグレシアスがさらりと言う。


「見るだけでもですか」

「それ以上は望みようもない」


 越えられない身分差か、卒業後にはジャカランス・グレイと結婚予定である事か、アイアゲートを囲い込んでいるのが高貴な一族の貴公子だからか。


「あのエプロンの可愛いドレスは、彼女のような存在を僕も見つければいいと言っているんだと思う」


 全てにおいて自分達より秀でた余裕のある大人。アイアゲートが離れていかないと知っているから、好きにさせている男がアイアゲートを「見つけた」。


 

 ジャスパーは黙って瓶を大きく傾けた。背中を滑らせるようにして姿勢を崩したイグレシアスが、天井を仰ぐ。


「敵わないよ、なにひとつ。この国に来て知ったけど、僕には思いもよらない法案は殿下から出ているんだ。女性は庇護すべき存在と教えられてきたから、地位の向上なんて考えもしなかった」


 御家が今少し不安定な立場にあると、ジャスパーはイグレシアスから聞いた。他に漏らすつもりは微塵もないが、弱点を晒す公子にジャスパーは好感を持った。


「視野を広く持たねばならないと学んだ」


 女性の地位向上への取り組みは、特に庶民間でエドモンド殿下の人気を高めている。


 レクター女伯爵の入知恵だと、一部貴族ではやっかみ半分で噂されているが、ジャスパーには全てひとりの女の子の将来の為ではないか、という気がしてならない。確かめるすべもない推論を披露はできないので、ここは無言を通すしかない。


 美女と言えば傾国と決まっている。しかし、レクター女伯爵もアイアゲートも「傾国の美女」ではないらしい。むしろ民を暮らしやすくしている。


 赤毛の同級生に関して言えばそこまでの美女ではないし。くりくりとした目を思い出し、ジャスパーは密かに微笑した。



「国にいる時は、自分達と平民はまるで違うもので、彼らは何も考えていないし理解する必要もないと思っていた。けれど、みな考えはあるし、平民と一口に言っても生活には驚くほど差があるとも知った。この学院に在籍する平民は、生活水準の高い家の子だね」


でなければ学費が払えない。奨学金制度はあっても、人数が限られる。


「シーゲルさんが去年のドレスを着て堂々としているのに驚いたよ」


 カミラのことだ。続けて同じドレスを着ようものなら「そのドレス、よほどお好きなのね」などと言われてしまうのが貴族。「同じ物を何年も着るなんて、貧しい」というあざけりだと男のジャスパーでもわかる。


「教えてくれたのは『パーティーに参加するご令嬢の中にも、それくらいの生活レベルの方もいる』と、僕に伝える為だろう。彼女もまた聡明だね」


 それは良い方向への誤解ではないか。アイアゲートも含めてカミラがそこを気にするほどの育ちではないだけで。

ジャスパーは無言で耳を傾けた。


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