表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

271/560

イグレシアス公子とのお別れ・4

「釘……」

「今まで学校では使いませんでしたが、この釘が最強です」


 重大な秘密を打ち明けるかのように小声になった。


 男子ばかりでダーツをした際、そのうちの誰かが「自分よりアイアゲートが上手い」と言い、さらに「アイアゲートがめっぽう強いのは『釘打ち』だ」という話になったらしい。


 説明するより見たほうが早いと呼ばれ、釘打ちの実演をした。いたく気に入った公子に乞われその後も何度か勝負したけれど、一度ジャスパーに負けた以外全ての勝ちはリリーのものだった。

その時も使わなかった「秘密の釘」だ。


「君のそんな大切なものを、僕に?」

「はい」


 リリーは決意を込めて見つめた。本気で言い合っているけれど、傍から見たらすごくおかしな光景のような気がする。と、頭のどこかで思うのは、出来るだけ遠くに追いやる。



何しろこれは。

「ただの釘ではありません。オーツ先生のお力を借りて、身につけると解熱鎮痛効果が出るようにしました。効果が持続するのは半日ですが、三十回までは保証します」

ふたつとない釘なのだ。


 理解がついていかないというイグレシアスの様子は、いつかのイリヤによく似ていた。


「効果を充分に引き出すには、信じる気持ちが必要です。治すわけではなく一時的に抑えるものなので、その間普段通りに動けますが後が酷くなるかもしれません。副作用はありません」


 国を代表する方だ。本当は休むべきでも、そうできない日はあるだろうと思う。


「仕掛けは上々、必要なのは公子の気持ちだけ」


 リリーが顔を上げて自信たっぷりに笑んでみせると、公子の瞳に輝きが増した。


「わかった。君を信じる」


「いえ信じるのは私じゃなくて釘の力」と言いかけて、公子はそんなことは分かって言っているのだと思った。



「釘の先は潰していないので、気をつけてください」

言ってから、思いつく。

「公子、私の頭のリボンを片方取ってください」

「いいの?」


 わけが分からない様子ながらも、解いて手渡されたリボンを、リリーがクルクルと釘に巻きつける。先が出ないよう注意して巻くと、不格好な糸巻きのような形になった。


「これで危なくないです」

満足して返せば、イグレシアスは笑いだした。


「何だかわからなくなったね。これなら無くすことも刺さる心配もないけれど」


 付加するだけなら先は潰すけれど、公子が国に帰って釘打ちをする時のためにこれは潰せない。


「ありがとう。とても嬉しいよ。辛い時に君が助けてくれると思えば、何でもできそうな気がする」


――辛い時ではなく痛い時でどう誉めても元は釘。

とリリーが声に出さないのは、近づく別れの気配を感じているから。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
しんみりしてしまう場面なのに、リリーが相手だと喜劇になります。公子への贈り物に“釘“しかも先を潰してない凶器(笑) 公子が辛い時、ほんのひととき痛みがなくなる魔法。発動条件は公子の“信じる心“だけ。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ