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貴公子は白いウサギに開き直る・3

 夜会の帰りにそれとなく若き主を隠れ家へと誘導しようと思っていたロバートだが。


 そのロバートが驚くほどの早さで夜会を切り上げて馬車へと戻ったエドモンドは「アレが来ている。早く出せ」と、自ら馭者を急かした。


「エドモンド様は、リリーお嬢さんが家に来る日がお分かりになるのですか」

すぐに駆け出した馬車の内で、ロバートが尋ねた。


「来る日が分かるのではない。アレが鍵箱を開けると分かるのだ」


 鍵を無くすのが怖いというリリーの為に――恐らくは母親に見つかる事を案じての発言だろうが――エドモンドは、玄関脇の目立たない場所に鍵箱を設置させた。


 回転式の錠前で、決まった幾つかの数字を合わせると開き、内側から鍵が取り出せる。これなら鍵を持ち歩く必要がない。その番号をリリーが合わせるとエドモンドには分かる仕組みらしい。


「それも異能でございますか」


 当然だと云わんばかりの視線をエドモンドが投げる。

 ロバートにはますます異能が何であるのかが分からなくなりつつあるが、この主人が説明してくれるとは思えない。


 そして往々にして出来る人の説明というものは、全く理解できていない者にとっては、聞けば聞くほど分からなくなるものだとロバートは知っている。

「異能は万能」そう思うことにした。




 今夜はリリーが来ると知っていたロバートは、馬車に細々とした物を積んでいた。


 いつもの馭者に手伝わせながら荷を運ぶロバートの耳に、エドモンドの声が響く。


「湯船の中で寝るな」

「少しは隠せ」

「また目を閉じるんじゃない」


 つまりは湯船の中で、うつらうつらとしていたリリーが、エドモンドに見つかり叱られているのだろう。


ロバートは急ぎ足でリリーの元へと向かった。


 湯船の縁は高い。リリーを湯から出してやったらしいエドモンドはずぶ濡れだ。リリーはまだ眠そうにして、湯を滴らせながらぼんやりと立っている。


「代わりましょう。エドモンド様にもお着替えが必要です。肘掛けソファーに置いてございますので」

タオルを片手にエドモンドと代わる。


「おじ様、坊ちゃまに叱られたわ」


 リリーがもうメソメソとしている。長湯で心身共にほぐれたらしい。


「叱っては、おられませんよ。お嬢さんが眠り込んでお湯に沈んでしまうのを、坊ちゃまはそれはそれは御心配なさったのですよ」


浴室の外から咳払いが聞こえる。


「ごめんなさいを言った方がいい?」


 小さな声で助言を求めてくる。今日も全身良い色で愛らしいリリーを拭いてやってから、ロバートは乾いたバスローブで包んだ。



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