イグレシアス公子とのお別れ・2
エスコートといっても卒業パーティーでは、飾りつけた入口を通る時に一緒というだけ。それでも主賓扱いのイグレシアスと腕を組んで入場するのは、緊張する。
主賓に同行するだけの自分が微笑するべきなのかも分からない。そこもおじ様に聞いておくべきだったと、自然に起こった拍手のなかでリリーは悔やんだ。
カミラとスコットは最初から最後までふたり一緒にいるけれど、イグレシアスやジャスパーには「この機会に是非ご挨拶したい」と考え、順番を待つようにする生徒や教職員が多い。リリーがずっと隣にいるわけにもいかない。
「ダンスはどう?」
イグレシアスが聞く。三人目までは同郷の令嬢と同級生で決まっていると言う。
「私はいいです」
この「いいです」を、否定の「いいです」と取ってくれると良いけれど。
「そう、じゃあその分話そうか。奥にある控室をひとつ僕用にしてくれているから、間食の時間になったら来て。一緒にお茶を飲もう」
正しく理解してくれたイグレシアスに感謝して、リリーはその場を離れた。
心配していたドレスは下級生の女の子に好評だった。
「アイアセンパイ、かわい―い」
ひとりが大きな声で誉めてからカワイイが伝染して「微妙なドレス」は「年下受けするドレス」へと変わった。
マクドウェル様が眉ひとつ動かさなかったところを見ると、背中や腕が出ているドレスより、張り合わないという意味でこちらが正解だったのかも。そこまで読んでいたとしたらおじ様はやっぱりすごい、とリリーは感心した。
そしてカミラは「ドレスに染みを作りたくないから、食べ物には気を使うわ」と言うけれど、エプロンさえあればそんな心配も無用。
もう口や手をベタベタにしない――子供の頃に比べれば――のに、信用の無さがこのエプロンに繋がったのだとしたら。この分ではこれから着る全てのドレスにエプロンが……それもおじ様のご配慮と良い方にとることにした。
カミラに聞いた通り、三年生女子は華やかにしているが、他学年女子はデイドレス風のおとなしめのデザインが多い。
リリーとカミラはお揃いで左手首に花市で売る「花冠」に似せた飾りをつけた。花の少ない時期なので、アイビーにプリムラをあしらったシンプルなものだ。スコットも衿に同じ小さなブートニアを挿している。
公子には勧めなかったら残念がったので、リリーのものから一輪抜きとり挿した。
「ふたりきりだと多少の問題はあるかもしれないけど、四人で同じものなら大丈夫」らしい。
公子がクラスで何をどう話しているのか。一年生女子にリリーの人気が高いようで「触っていいですか」とか「作り方を教えてください」と花冠を見に代わる代わる寄ってくる。
ついに「このエプロンと同じものが欲しいです」と言われたり。おかげで踊らなくても、ひとりでいても、リリーは退屈することがなかった。




