貴公子は仮面舞踏会へお出掛けに・6
語りかけるタイアン殿下の瞳はマスクの奥。探るように見ていたリリーは、いつの間にか息を詰めていた。
「僕以外には無理だ。その時は必ず僕を頼って」
なぜそんな「ご親切」を。その疑問を口に出していいものか。ここまで話しておいて今更の感はあるけれど、仮面舞踏会とはいえ、この上なく高貴な身分の方を独り占めして会話を続けるのは、マナーとしてどうなのか。
「エドモンドは目利きでね。良い物を見極める目を持っている。子供の頃からそうだった。だから、僕はエドモンドの選んだものを貰えば間違いが無かった」
いきなりの独白。年上なのだから年少のタイアン殿下より物の良し悪しが分かるのは当たり前。リリーがそう思っても、意見は求められていないので発言はできない。
「だから、君に興味がある。エドモンドは物惜しみしないけど、君を譲ってはくれない気がする。今日だって、僕が来ないと考えていたから急遽出席を決めたのだろうし」
いたずらが成功した子供のような口調だが「兄が遊び相手を連れ出すよう僕が仕組んだ」という話だ。いい大人なのにとんでもない。
リリーは呆気にとられて、何と返していいのかも分からなかった。
「お顔が見たいけれど、仮面舞踏会で『仮面を取って欲しい』なんて皆の前で言うのはルール違反だ」
それはそうでしょうとも、と心から同意する。
「だから」
すうっと目が細まる。
「ふたりきりになれる所へ行こうか」
驚きで目を丸くしたまま堪えきれずに吹き出すリリーに、心外だというようにタイアン殿下が「何かおかしな事を、言っただろうか」と口にする。ここまで来ると、もはや言い慣れた言葉で既定路線としか思えない。
微かに笑いを含んでいるから、言った当人も本気じゃないはずだ。
「とにかく、逃げるなら頼るのは僕。それは覚えておいて」
要点までまとめてくれるご親切に、ますますリリーの笑いは止まらない。それでも頑張って「はい」とだけ返しせば、タイアン殿下は満足そうに頷いた。
「そこで話されては迷惑だ」
冷ややかな声がした。いつの間にか戻ったエドモンドが、階段の途中の弟殿下に煩わしげな視線を向けていた。
いつからそこにいらしたのだろう。リリーの気持ちは「後ろめたい」だ。何か企んだわけでもないのに、気がとがめるのはどういう理由なのか、自分でも分からない。
アイマスクの兄エドモンドと、銀の仮面で顔半分を隠した弟タイアン殿下は、こうして見ると顎から頬へかけてのラインがそっくりだった。




