貴公子は仮面舞踏会へお出掛けに・3
音楽も何もかも、エドモンドがリードするのだ。何かに合わせる必要などなく傲慢なほどに自由でいい。
遊びか暇つぶしのように教えてくれたステップの中でも、今夜は動きの大きいものばかりを組み合わせていく。
「坊ちゃま! このドレスでは……!」
こんなに動いて解けたらどうするの。小声で訴えると、エドモンドは心から愉しげに笑った。「解ければ面白い」とその瞳は言っている。
見栄えのするダンスに見惚れていた淑女から悲鳴にも似た歓声があがる。
「美しすぎて……目の毒ですわ」
「あのように微笑まれるなんてっ」
口元を扇で隠していても、踊るリリーの耳にまでしっかりと届くエドモンドへの賞賛の声。
リリーについては、ひとつもない。引き立て役にすらなっていないと思えば、残っていた緊張がとけ良い感じに身体の硬さが消えた。
なら、こんなことも出来ちゃう。リリーは指示もないのに、エドモンドの脚に自分の脚を絡ませる動作を入れた。身体に巻いた布の合わせ目から、一瞬とはいえ膝上まで晒されたはずだ。
チラリと周囲の殿方に目をやれば、視線は太ももの辺りに固定されている。そんなところまで見えてはいないと思うのに。
少し楽しくなってすぐそこにある顔を見れば、先程の上機嫌が一転して「不快だ」と下げた口角が伝えている。
「終わりにする」
回転した勢いのままに片手を離されたので、リリーは跳ぶが如く大きく踏みだし、片膝をついて上体をのけ反らせた。場がざわつく。
見れば立てた片膝がつま先まで剥き出しで、美しいビーズがあしらわれた踵の高い靴まで披露するという、淑女にはあるまじき姿になっている。
男性は深い襟ぐりからこぼれそうな胸より、女性の足首に魅力を感じるのだと、オーツ先生が言っていた。隠されていれば見たくもなるだろうが、こうも晒されては興ざめに違いない。
でもお行儀がよろしくないのは間違いない。不愉快を分かりやすく示すエドモンドの前で、今更ながらできるだけおしとやかに脚を隠し立ち上がって一礼した。
賞賛を一身に浴び泰然と歩くエドモンドが、作り笑顔のまま苦言を呈する。
「やり過ぎだ」
「先にしたのは坊ちゃまでした――」
ドレスがほどけなくて本当に良かったと、リリーはこれみよがしにブローチを押さえた。
「お前とは二度と人前では踊らない」
人のいない彫像の陰になる場所までリリーを誘導したエドモンドは、「ここから一歩たりとも動くな。主催者への挨拶を済ませたら今夜は帰る」と、不機嫌さを隠しもせず一方的に告げた。
坊これ以上叱られたくはないので、大きな声では言えないけれど。
「みんな坊ちゃましか見てないもの。私が何かしても誰も覚えていないから、大丈夫なのに」




