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闇夜の灯り

 親睦会はジャスパーの部屋では行えなかった。多人数で個室に集まるのは寮の規則に抵触すると分かったからだ。


 おじ様ロバートの計らいにより「イグレシアス公子とエドモンド殿下の繋がり」を理由に、荘園の本館を会場にしてくれることになった。


そこで初めてリリーは、週末に過ごすいつもの館が別館であると知った。



 前日授業が終わったら荘園へ向かい宿泊。翌日の創立記念日の昼に親睦会をして、夕方早目に寮に戻るという計画は、公子とジャスパーの安全を考えての事だとリリーにも分かった。


「寝室の数も充分にありますので」とロバートは言い、先にイグレシアスとジャスパーの保護者から必要な同意まで得ていた。


 平日なので館の主は不在。そう説明を受け、皆ホッとした様子を見せた。リリーにはわからないが「エドモンド殿下」に緊張するらしい。



「あなたの保護者は、エドモンド殿下の家令をお務めになっているのですね」


 既知の事実を確認するような口ぶりのジャスパーに、リリーは頷いた。そんな説明をしたかどうか覚えてはいないけれど、エリックから聞いていたのかもしれない。


 イグレシアス公子はロバートとは久しぶりの再会らしく、何かと話が弾んでいた。





 それぞれが案内された客室に引き上げてしばらく後。リリーは赤いマントを着て、こっそりと部屋を抜け出した。


 月のない夜で足元は見えない。部屋にあったランタンを持ち出して、その灯りを頼りに進んだ。


 明日の親睦会の料理は、リリーがつくろうとして禁止された「茹玉子を挽き肉で包み衣をつけて揚げたもの」や白身魚のフライ、ポテトフライなど、庶民が好む味かつ男の子が好きなものに決まった。実はカミラもリリーも大好きだ。


 スコーンも紅茶入り、チョコチップ入りと何種類も用意してくれる。おじ様に任せれば万事間違いがない。



 でも言い出したのは私なのに、何もできなくて結局はおじ様に頼り切り。リリーは砂利を踏みしめながら歩いた。


 大人になれば自立できると思ったのに、大きくなればなるほど、自分ひとりでは何もできないのだと思い知らされる。


 何歳になれば大人で、自立できたと言えるのだろう。人の暖炉で暖まる事に既に慣れてしまっている。楽な方に流されるのは良くないと知りながらも、平民女性ひとりで暖炉付きの家に住むのは頑張ってもかなり難しいとも、分かり始めた。


 坊ちゃまがいなければ、自分など何者でもない。ため息が出るような気持ちになる。



 ようやく目指す別館が見えた。誰もいないはずなのに、所々に灯りがみえる。そして坊ちゃまエドモンドの部屋にも灯りがともっていた。


 リリーは、しばらく窓を見上げて動かなかった。

「おやすみなさい、坊ちゃま」


 口に出してみれば、ささくれ立つ気分が少し落ち着く。そのまま館に背を向け、来た道を引き返した。





 夜遅くに報告に来たロバートにエドモンドが何気なく告げた。

「先程、アレが来た」


リリーが館を出たとは知らなかったロバートが尋ねる。

「今は、どちらに」


エドモンドがワイングラスを窓枠へ置く。

「入らずに戻って行った。扉に鍵はかけていなかったが、元から入る気は無かったのだろう」


 闇夜にリリーの足では二十分はかかる。往復すればその倍。ロバートは立ち去るリリーの後ろ姿を思った。


「土曜に集まりがあったな。出欠を保留にしていたが、出席と返しておけ」


 エドモンドの整った顔は感情が読みにくい。ただ珍しく窓の縁に肘をのせて外を眺めている。


 ロバートは気がついた。この窓からならば、遠ざかるランタンの灯りは木立の間でも本館へつくまで見えたはずだ、と。

グラスへワインを注ぎ、ロバートも暗い庭に目をやった。


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