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貴公子は危険な真似を許さない・2

「禁句じゃなくて禁止が増えた……」


「料理が危ないなんて聞いたことない」と情けない顔をするリリーに、エドモンドが追討ちをかける。


「そもそも一度や二度試してみての料理を人に出そうという考えが誤りだ」

「……家政部の子とカミラも一緒に作ってくれるもん」 


 消えそうなリリーの声。目の縁が赤い。これは久しぶりに泣くかもしれない。椅子に座るリリーの脇で片膝をついたロバートは、細い手をとり涙拭きタオルを握らせた。


 フワフワしたものは、子供の心を落ち着かせる効果があると聞く。

 若き主が床に座るようになった事をどうかと思っていたが、自分も人のことは言えないと頭の片隅で思う。



「寮で召しあがりたいというのは分かりましたが、趣旨をお聞かせ願えますか」

「イグレシアス公子がジャスパーのお部屋に住むの。入寮者の親睦会のようなキチンとしたものはできないけれど、持ち寄りパーティーくらいだったらと思って。来週の創立記念日にする事になったの」


 出席者はカミラ、イリヤ、ペイジとモンク。会場はジャスパーの部屋だと言う。ぐすっと鼻を鳴らすリリーと公子を合わせて七人と確かめたロバートは、まだ泣かないうちに「よしよし」と頭を撫でる。



 若き主のきつい物言いが宜しくない。その横顔を見れば、ロバートには話を聞いていると分る。


「持ち寄りとおっしゃいましたが、他にはどなたが」

「イリヤは馬に乗るから、お菓子を買いに行ってくれるの。ジャスパーは飲み物担当で、カミラと私がお料理」

「それは大役でございますね」


 間違っても「大変」とは言わないが、七人分。そのうちの五人が食べ盛りの男子だ。調理に不慣れなリリーには荷が重い。ほろり、リリーの目から涙の粒が落ちた。


 元から自信が無かったところに、あれ程強く禁止されて、どうしていいのか分らなくなったのだろう。



 ロバートの耳に届く聞こえよがしの溜め息はエドモンドだ。

「お前が困った時にはどうすれば良いのか、何度も教えたはずだが」


謎解きのようなアドバイスに、リリーが涙拭きを握りしめる。


「困った時に助けるのは誰だ」


 リリーの手が伸びた。椅子から身を乗り出してぎゅっとロバートの首に抱きつく。


「たすけて、おじ様」

「全てお任せください」


 心配はいらないと背中を撫でるロバートを「責任重大だな、ロバート」と冷やかすエドモンド。誰のせいでこのような事にと横目で見れば。


「公子の口に入れるものを子供に作らせる訳にはいかない」

唇の動きがそう伝える。声はない。

「間違いの無いよう、食に関してはお前が責任を持て」と。もっともなことだ。


「私がお手伝い致しますからには、お嬢さんのお好きな物をお持ちしましょうね」と言いながら、目は主から離さずに「承知致しました」と伝える。


 本来ならばイグレシアス公子との会食には申請が必要で、今からでは来週などとても間に合わない。そこから始める必要があった。一切をリリーに告げないのはエドモンドの配慮だろう。


そんなことは露とも知らず。

「私の好きな物じゃなくて、公子のお好きな物にして」


もう立ち直ったらしいリリーからのリクエストにロバートは微笑で応えた。


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