貴公子は危険な真似を許さない・1
ピクニックと称して戸外で昼食をとる時に、リリーが好む物のひとつとして用意する料理がある。請われて、お茶の時間にロバートは作り方を説明し始めた。
「まず、塊の肉を細かく刻みます」
ふむとリリーがメモをとる。熱心に聞く態度に思うところがあるのか、少し離れてティーカップを口に運んでいたエドモンドが、考える様子を見せた。
目の端に入る主を気にかけつつ、先を続けるロバート。
「玉葱も一つ、細かく刻みます。細ければ細かいほど、なめらかな口あたりになります。次に先程刻んだ肉にパン粉と卵を加え、手でよくこねます」
「待て、ロバート」
よく響く声に制止され、リリーとロバートは揃ってエドモンドを見た。
「それは、油を使うのではないか」
油は高価だ。この料理は大量に油を使用する「揚げもの」だが、油の使用量を減らしたければ「揚げ焼き」も可能だ。どちらにせよ、主の言うとおり油は使う。
「はい。使用いたします」
エドモンドの顔つきが険しくなった。調理にかかる費用など気になさる事があったか。ロバートは主の質問の意図をつかみかねた。
リリーも同じであるらしく、キョトンとしているが、それはそれで愛らしい。
「それに、ナイフも使う」
当たり前の事をエドモンドが指摘した。肉を刻むのも玉葱を刻むのも、使うのはナイフだ。それが何か。
「コレの料理の腕前について、アイアゲートは何と言ってきた」
エドモンドの硬い声を聞き、ようやく思い当たったロバートは、あっと口に出しそうになった。そこは呑み込み平静を装う。それが出来てこそ家令である。
異国に届いたアイアゲート氏からの報告書にはこうあった。
「勉学を優先させたため、料理や裁縫に割く時間が不足した。子女のたしなみとされる諸事については、今後の上達に大いに期待するところである」と。
つまり「現状は推して知るべし」だ。ロバートがすっかり理解したところで、エドモンドが重々しく予言する。
「肉が細かくなる前に、コレの指が短くなる」
ナイフで指を切る。そう言われているとかなりの時間をかけて気がついたリリーが、目をむく。
「坊ちゃまは、私がナイフを使えないって言ってる」
「その通りだろう」
顎を上げて半眼になったエドモンドに、リリーが憤然と抗議する。
「やれば出来るし、しないと出来るようにはならない」
「それはつまり、今は出来ないという告白か。自覚があるのは良い事だ」
エドモンドが端正な顔に皮肉な笑みを浮かべた。
「うっっ」
押され負けたリリーが、どこで覚えたのだか芝居調に胸をおさえる。
「そのうえ油を使う。慣れない事をして火傷でもしたら、どうする。危ない事は一切許さないと前々から言ってある。料理は禁止だ」
一切の反論を受け付けない断固たる調子で、エドモンドが通告した。




