公子と後嗣と暖炉猫・3
テーブルの上にあるのは出来たばかりのリースだ。
去年とは素材を変えて柊の葉を多用し、柊の実とはじけた綿の実を使って、緑の葉に雪がのったようにした。
所々に配置したドングリは余計かもしれないけれど、好きだから仕方ない。素材は坊ちゃまエドモンドの荘園にあるものなので、使いたいだけ使える。
昨年ジャスパーに「余り物の寄せ集めリース」を渡したことが、リリーの悔いとなっていたので、今年は一番良いものばかりで作って持って来た。
カミラやイリヤに頼まれた分も夜ふかしをして作っていたら、今週は寝不足となり、必死にあくびを噛み殺したのに、ジャスパーにはバレていたらしい。
リリーは伸び上がるようにして、リースを見た。
「今年は雰囲気を変えてみたの」
「そのようですね。季節感がとても出ています。ここに有るという事は、頂いても良いのでしょうか」
そのつもりで置いている。去年は「季節感がないのがいい」と言ったジャスパーに、リリーは黙って頷いた。
暖炉があると知るまでは、ジャスパーの部屋に入りたいとは全く思わなかったけれど、今はオーツ先生の部屋を出たらそのままここへ来たいほど、この部屋が気に入っている。
坊ちゃまエドモンドは「冬の間はこの館から通うか」と聞いてくれた。でも、お仕事があるので普段は公都の離宮にいると知っているリリーとしては、「そうする」とは言えない。
「ロバートの仕事が増えるだけの事だ。遠慮は不要だ」と言われては、なおさらだ。
「かわいいね、本当にかわいい」と言いながら、イグレシアス公子がリリーの頭を撫で続ける。
気持ちがいいけれど、勝手に目が閉じてしまうし、少し照れてしまうしで、考えがまとまらない。本当に猫に見えているんじゃないか、と半ば本気でリリーが考え出した頃合いに。
「お茶をどうぞ」
ジャスパーが「手渡しで失礼」と断って、それぞれにカップを渡す。受け取る為にイグレシアスの手がリリーから離れた。
「どうして公子がここに?」
お茶を飲み、ようやく回るようになった頭でリリーは尋ねた。お世話役はペイジのはず。
公子がジャスパーを見、ジャスパーが公子を見る。リリーはそんなふたりを交互に見て返事を待った。
侯家の子弟用とされるジャスパーの部屋は、居間と寝室の二間ではなく、もう一部屋付き人用の寝室があった。ジャスパーはひとりで入寮したが、その部屋にも寝台と最低限の家具は入れてある。
何年も使用していない部屋を使うより、狭いながらもすぐに住める状態のこの部屋をお使いになってはどうか、とジャスパーは申し出たのだった。
「完全にお独りにはなれませんし、私より狭い部屋をお使い頂くのは恐縮の極みですが」
「いや、願ってもない有りがたい提案だったよ」
リリーに説明しながら微笑するふたりに、いつの間にこんなに仲良しに? と思うけれど、雪の日には共に乗馬もしていたから、気心が知れてきたのだと解釈する。
「毎日のようにいられるのは年末までだけれど、その後も来られる時は泊めてもらえるだろうか」
「どうぞ。いつでも歓迎いたします」
いい事を思いついた。リリーは「はいっ」と手をあげた。




