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公子と後嗣と暖炉猫・2

 その一言でかなりの事を察したらしい。イグレシアスが得心顔になる。


 イグレシアス家の好感度を上げる為、オーツ先生監修の「似顔絵付きカップ」を定期の船便で輸送する話を、かなり本気で進めているというから、オーツ先生の実力とその特異な個性はよく知っているのだろう。

 アイアゲートを可愛がっていることも含めて。



「こんなに近くで話しても、起きないんだね」


 艶のよい赤毛に触れたそうにするイグレシアスに、ジャスパーは「どうぞ」と目で示した。


「猫ですから、毛を撫でるくらいよいのでは」


 オーツ先生が日頃撫で回しているのを見ているし、それをアイアゲートが寝ていても起きていても嬉しそうにするのもまた、先生の部屋では見慣れた光景だ。


 そして、人を「眠らせて」異能を使う時には、ぴったりと素肌に掌をつけてくる。時には額や頰までも。そのまま自分が眠ってしまったりするのだから、本当にアイアゲートは始末が悪い。


 イグレシアスが触れるくらい何でもない事のように思えるし、仮に途中で目覚めても気にしないと思えた。


 逡巡するイグレシアスに「ご覧いただく隣室を確かめて参ります」とジャスパーは背を向けた。







 リリーが重い瞼をなんとか持ち上げると、すぐ目の前にイグレシアスの顔があった。


 夢に違いない。無理をやめて再び目を瞑ると「オーツ先生のところでも、グズグズとしてからようやく動き出します」とジャスパーの解説が入った。


 グズグズはひどい。抗議の声をあげようとして、気がつく。そういえば、ジャスパーが戻る前に出て行くつもりで忍び込んでから、どうしたのだったか。


「人が目を覚ますところを見るのは初めてだけど、皆こうなのかな」


面白いと言うイグレシアスに、ジャスパーが返している。


「私には弟妹がおりませんので、分かりかねます」


 これは夢じゃなくて、どうやらトロトロとしている間に部屋の持ち主が戻ってきたのだと悟った。しかもなぜかイグレシアス公子までいる。


どうしたらいいのだろうか、と状況の深刻さにリリーは頭を悩ませた。


「あれ、暖炉猫は目を覚ましたみたいだ」


 イグレシアスが指を立ててリリーの頭を撫でる。気持ちがよくて、つい目を閉じてしまうついでに「にゃあ」と鳴いてみた。オーツ先生は、こうするとキャンディをくれるから。


 イグレシアス公子が笑う気配、そしてジャスパーの「オーツ先生は、何をさせているのです」と非難混じりの声がする。



徐々に目が覚めてきた。

「おはよう、アイアゲートさん」

「おはようございます、公子。……今は何時?」


ははっと公子が笑う。答えたのはジャスパーだ。


「まだ夕方です。今日は一日眠そうでしたが、これのせいですか」


ジャスパーがローテーブルの上を指した。


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