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この冬の雪・1

 イグレシアス公子との手紙のやり取りは、週に一往復に落ち着いた。月曜日にリリーが持って行くと、金曜日に返事が来る。週末に読み公国語で返事をしたためた。


 内容は季節の話題や、公国の食やマナーなど多岐に渡るけれど、個人的な事は書かれない。坊ちゃまエドモンドにそう言うと。


「私信とはいえ誰が目にするか分からない。現に私が見ている。見られて困るような内容は書かないものだ」


面倒がりもせずに、リリーの質問にそう答えた。







 遠くからでも先にリリーを見つけるのはイグレシアス公子。大きな笑顔を見せるので、公子のアイアゲートお気に入りは、すぐに皆の知るところとなった。


 ペイジが言うには、たしなめようとした同郷のモリーナに「だって彼女かわいいよね。せっかく家から離れているんだし、ここにいる時くらい好きにさせて。君もそうすればいい。帰国してから言い付けたりはしないから」と言い切り、言葉の続きを封じたらしい。


「普段気さくにされていても、その笑顔の圧が違いを感じさせた」とペイジから聞いても、リリーにはピンと来ない。「ふぅん」くらいの話だ。



 文通になってしまったのも、坊ちゃまエドモンドからは「そのような些事まで干渉しない、好きにしろ」と言われたので、手紙を書くことに慣れた今、公子に思うところはなかった。








 十一月に入ってすぐの雪は珍しい。降り出したのがお昼を過ぎていたので休校にはならず、皆授業が終わると積もらないうちにと、急いで帰って行った。


 風邪気味のカミラは早々に自室に引き上げた。ぽっかりと空いたような時間。リリーは思い立って外へと出た。



 水分が少なくサラサラとした今日の雪は、肩にのってもすぐに払えば濡れもしない。


 学院の裏手は広く平らになっている。何があるわけでもないけれど、足跡のひとつもない雪を見たい。そちらへ向かって歩き出した。



 本格的な冬より入り口の方が寒さをより感じるものだ。こんな寒いなかを歩く物好きはいない。リリーが白い息を吐きながら急ぐでもなく行くと、脇から来る人があった。


「アイアゲートさん」


 イグレシアス公子だった。地厚の外套を着込み、マフラーを鼻まで覆うようにぐるぐると巻き付けている。


「こんにちは、公子。寒さは苦手ですか」

「僕の国ではほとんど雪は降らないから、聞いてはいたけど見るのは始めてだ」


 冬でも陽光が降り注ぐ国と聞いている。公子の目に、この雪はどのように映るのだろうか。


「不思議だね、一面真白になって。もっとつもれば、下に何があったのか分からなくなる。この景色が信じられないよ」


眩しげにする公子と共に歩く。どこへとも言わずに。


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