年末年始の過ごし方・2
炊き出しをした教会で肉屋の息子トムと再会したと、ロバートはトムの父から聞いているが、リリーは言わないつもりらしい。そこには触れなかった。
エドモンドにも報告したが、若き主が記憶にとどめているかどうかは不明だ。
「今年の予定は決めているのか」
抑揚のない声でエドモンドが尋ねる。
「坊ちゃまは忙しくて一緒にいられないから、イグレシアス公子にお付き合いしようかと思って。公子は少し言葉に慣れないところがあるから、私がいると楽なんですって」
のほほんと火にあたるリリーは、エドモンドの眉間に皺が刻まれた事には気が付かないらしい。
異能というものは、こういう場合には働かないものなのか。ロバートは内心ハラハラとする。
イグレシアス公子は国から来た従者達と共に、大公家所有の邸宅に滞在している。エドモンドの荘園の離宮――今いるこの館――も、候補に上がったのだが主不在では準備が整わないとお断りした。
「公子の年越しの予定は、これから決まるのだな」
確かめられて「そう」と答えたリリーが首をひねり、エドモンドを見上げる。
「どこか公子と年越しをしてくれる親切なお家があるかしら」
「なくも無いが……ロバート次第だ」
視線も寄越さずに言われ、優秀な家令であるロバートは思案した。公子をお迎えすると言っても、イグレシアス公子だけをお誘いするわけにもいかない。ご令嬢ふたりもご一緒となる可能性がある。
そして当然、従者が着いてくる。客室、設備、警備がこれからでも整う所……まさか。しかし「あそこ」ならば、言葉も問題はなくリリーの同行は不要だ。むしろ行かせる事はできない。
ロバートが顔を上げると同時にエドモンドの口角がつり上がった。
「ロバートに心当たりがあるらしい」
おじ様にお願いに行く? と問うリリーに「せっかく良い位置に収まっているのだから動くな」と伝えるエドモンド。
「あの家なら何の不自由もないだろう。侍従長によろしくな」
普段なら言いもしない一言を付ける若き主に、ご丁寧なことだと思うロバート。
「ありがとう、おじ様。公子のお手紙に少しだけ書いておくわ。これで私のお仕事がなくなっちゃった」
目をくりくりさせるリリーに、ごく真面目な顔でエドモンドが告げる。
「年越しだからといって、私がずっと留守にするわけでもない。行儀見習いは館で留守番をするものだ」
知らなかった、ごめんなさい。と神妙な顔つきになるリリーに「これで覚えたならそれでいい」と、エドモンドは心の広いところを見せる。
エドモンドとリリーの会話を聞いていると「セレスト家(エドモンド限定)の行儀見習い」の職務が、ロバートにはどんどん不可解なものになる。リリーの職務は他に何があったか。
それよりもタイアン殿下の侍従長ファーガソンに遣いを送らねばと思い立ち、ロバートは静かに部屋を出た。




