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貴公子は行儀見習いを街へ連れ出す

 セレスト家御用達の香水店で、リリーが調香師について香りを調合してもらう間に、家令ロバートは「趣味の店」の商品リストに目を通していた。


 店の視察などしなくとも、エドモンドの名を出せば、即座に商品リストが表紙付きで提出された。


 参考までにリリーがたいそう気に入ったカップも四種全て見本として取り寄せたが、リリーの言うように絵柄は似ているとは言い難い。


 特徴はうまく掴んでいるところを見ると、アンガス・オーツは似せる事を「不敬」と捉え、あえてこの程度にしているのではないか、という気がしないでもない。


エドモンドはこのまま黙認を続ける、とロバートは判断した。



 それにしても二ダースとはまた買い込んだものだ。ロバートには公子の行動が微笑ましい。


 フェルナンド・イグレシアスの姉は、エドモンドと「縁を結びたい」と願っていただろうご令嬢のひとりだった。


 結婚を先延ばしにする為に留学しているのに結婚相手を決めるはずがない。などとは、もちろん知る由もない。


 互いを牽制しつつアピールするご令嬢方に、ロバートは申し訳ない気持ちを抱いていた。若き主には、そんな気配はみじんもなかったが。


 イグレシアス公子は表裏のない性格で、エドモンドに対する憧れを素直に表していた。公国までついてきたのはそのせいだ。けれど、まさかリリーとここまで親しくなるとは予測の範囲外だった。







 ロバートが考えごとをして時間を潰していると、店の奥にある工房からリリーが小走りに出てきた。


 はしゃぐとつい小走りになるのは、幼い頃と変わらない。淑女としてはあるまじき行為だが、リリーにはこのままでいて欲しい。


「おじ様! カミラとジャスパーにも作ってもらうの。おじ様が後日取りに来てくれるって、坊ちゃまが。でもご迷惑ではない?」


興奮して早口になるのも可愛らしい。


「まったく問題はございません。街にはよく参りますので」

「ありがとう、おじ様」


 キラキラと目を輝かせるリリーの後ろから、ようやくエドモンドが姿を現した。調香師も一緒だ。



「これの鼻は確からしい。いつもクンクンしているから子犬のようだと思っていたが、人より鼻が利くそうだ」

「坊ちゃま、私に失礼」


 ひよこ扱いには何も言わないのに、子犬扱いには憤慨するリリーが可笑しい。


「香りのセンスもなかなかのものです。私共と違い定型をご存知ないので、思いもよらない組み合わせをなさいますが、不思議に香りに濁りが出ません」


 調香師が感心すると、リリーが嬉しそうに胸を張る。それだけでも来て良かったと思うロバート。



「昼食は」

 聞いたエドモンドに、ロバートは人気店の名をあげた。予約で埋まり空席がないと言うので、館からテーブルと椅子を運ばせた。


 無ければ増やせばいい。問題にもならない。心配があるとしたら、若き主がいつものようにリリーの口に食べ物を運ぶ事だ。


 先に「人目がございます。テーブルマナーにはお気をつけ下さい」と僣越ながら釘を刺しておくべきか。必要とあらば叱責は覚悟の上で口出しせねばなるまい。主人の名誉の為に。


 そんな決意など知らないリリーが「おじ様、お昼はなに?」と袖をひく。ロバートは目を細めた。


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