貴公子は街歩きに口を出す・2
「……エドモンド様」
たしなめるロバートにエドモンドが聞えよがしに溜め息をつき、リリーの顔から手を離した。
そのままリリーを子犬のようにぐいっと持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。
「オーツの趣味の店か」
「さようでございます」
ふたりはそれで分かるらしい。私だけが分からない。我慢できなくなってリリーは尋ねた。
「オーツの趣味の店?」
ごそごそ動くな、とリリーのお腹を押さえながら肯定するエドモンド。
「アンガス・オーツ。お前の言う『オーツ先生』だ。昔からおかしなほどセレスト家が好きで、勝手にデザインした物を作って売っている。『布教活動』なのだそうだ。お前のカップを売っていた店は、オーツが開いている店だ」
店主はまさかのオーツ先生だった。思い返せば、雑多な物が所狭しと置いてある様は、先生の部屋に似ている。でも勝手に大公家を元にお商売をしていいのだろうか。
リリーが疑問を口にする前に、エドモンドが答えた。
「オーツのデザインには、どういう訳かセレスト家の好感度が上がる術が付加されるらしい。微々たるものだが。それならと黙認してきたが、まさか似顔絵付きの物まであるとは」
坊ちゃまエドモンドの表情が微妙なものになる。似ている似ていないとは別の問題らしい。
「大公様からタイアン殿下まで、カップは四種類あったわ。あと飼い犬のぬいぐるみとか、柄は見なかったけど枕カバーもあった気がする」
聞いたエドモンドが顔をしかめる。
「ある程度の規制は必要か。――ロバート」
「即刻、商品を確認いたします」
「で……」
話を変えると示すように、エドモンドがリリーの口元にグラスを運んだ。これが大人の仲直りかと、少し首をつきだして一口飲む。
「お前が楽しかった理由は、そのカップだけか」
「あとは、お店を見るお買い物が初めてだったから」
リリーの一言に、エドモンドだけでなくロバートの動きもまた止まった。
「子供の頃はお金がなかったから、欲しいものが買えなかったでしょう。学院に入ってからは、歩いて行ける所にお店はないし。購買部があるから困らないけど。お店でお食事をするのも初めてだったから、はしゃいじゃったのかもしれない。ごめんなさい」
リリーが考え考え理由を話すと、室内に沈黙が満ちた。長い間をおいて、エドモンドが口を開く。
「お前が欲しいのは、どのような品だ」
「必要なものは坊ちゃまが全部くれるから、何もない」
いきなり何を言うのかと、リリーは目をくりっとさせた。
「そうではなく。店を見て回って目についた品を買うような場合において、だ」
エドモンドが辛抱強く尋ねる。
それなら。
「イグレシアス公子が、寮のみんなにってお菓子をくださったの。カミラが嬉しそうにしていたから、私もカミラに何かあげたい」
それは坊ちゃまのお金ではなく、自分で買いたい。




