公子は街歩きをご所望です・4
次にリリーが立ち止まったのは雑貨屋だった。目を引かれたのは、扱うもの全てが大公家にちなんでいるせい。大公家ご公認とも思えない雑多な品が所狭しと並んでいる。
低価格なのでお土産物や記念品にいいかもしれない。
「イグレシアス公子、変わったお店です」
リリーが言った時には、イグレシアスも興味津々というように眺めていた。
彼が持っていたはずのお菓子は、すぐに寄って来たどなたかに渡して、もうその手には無い。これならどれだけ嵩張っても大丈夫そうだ。
入ってみると店内は予想以上だった。
大公旗が売っているのは理解できる。インテリアとしてはどうかと思うけれど、熱心な大公家贔屓の方なら欲しい一品かもしれない。
でも大公の愛犬を模したというヌイグルミは……。犬種が合っているかどうかを、次に会った時に坊ちゃまエドモンドに確かめようと思う。
「見てください。冠のニセモノがあります」
手を引いたリリーに、イグレシアスが首を傾げる。
「それは偽物ではなく、置き物なんじゃないかな。でも大きさはこんなものかな」
かぶれそうだね、と自分の頭上にかかげる。ふざけて厳しい顔つきをするイグレシアスに、リリーは「お似合いです」などとつい笑ってしまった。
「これは何?」
イグレシアスの視線の先にある小さなカップにも、しっかりと大公家の紋章がついている。
「エッグスタンドです」
トロトロの半熟にした玉子をこれに立てて、上を玉子専用のカッターで少し切り取り、スプーンですくって食べる。
朝食の時に出て、坊ちゃまエドモンドはこぼしたりしないのに、リリーは黄身を垂らすので、これを食べるときはおじ様に専用のエプロンをさせられる。
リリーの目が吸い寄せられたのは、その隣にあるお茶を飲む為の大きめのカップだった。
白い陶製でひとつひとつに似顔絵が描いてある。値札の名は大公閣下、後嗣殿下、エドモンド殿下、タイアン殿下と並んでいる。
イグレシアスが右端のカップを指した。
「それはタイアン殿下?」
「似ていらっしゃいますか」
学校見学会にいらした方がタイアン殿下なら「この四つの内で言うならばこれでしょうか」というレベルだ。
「タイアン殿下とは三度しかお会いしていないけれど、まぁまぁかな」
それを言うなら、隣にある坊ちゃまの似具合も、リリーから見れば「まあまあ」の域で。
坊ちゃまの眉目秀麗な顔立ちをカップに表現するのは困難を極める事と思われる。これが限界なのかもしれない。
「これは面白い。買って行こう。四種六個ずつ」
重さは大丈夫かと見れば、店内にはいつの間にか大柄な男性がいた。店にそぐわない風貌なので、見守り役の方なのだろう。リリーが目礼すると同じように返された。
包装を待つ間、他に目をやればそれぞれの名札のついた紅茶もあった。
「お好みの銘柄かな」
リリーはエドモンドの名のついた紅茶の見本を嗅いでみた。普段飲んでいるのは、これじゃない。
「分かりませんが、方々をイメージしたお茶、だと思います」
本当に同じ物を手に入れたいのなら、お尋ねになった方がいい。リリーの忠告をイグレシアスは受け入れた。




