留学生登場・2
「なんだか別のものに見えて来たわ、そのブレスレット」
カミラの感想に一同が頷く。
「過保護なのよね」
意気込むリリーに同意しないのは、どういう訳か。
留学生は女子ふたりモリーナとカサス、男子ひとりイグレシアス。
茶話会ではジャスパーとレイチェル・マクドウェルと同じ卓に着いている。あの辺りがいわゆる上座なのだろう。
ジャスパーがかばってくれてから、マクドウェルとその友人もすっかり大人しくなり、と言うよりリリーを見ないようにしていて、お陰さまで平和な日々が続いている。
無視されているとも言えるが、快適なのでかまわない。
「君のそのブレスレットは、とても素敵だね」
頭上から響いた朗らかな声に驚いたリリーは、勢いよく視線を上げた。
ダークブラウンの癖の強い髪と同じ色の瞳が、よく焼けた色の肌と調和して快活さを感じさせる男子は、さきほど皆に紹介された「フェルナンド・イグレシアス公子」だ。
背はジャスパーほど高くないが、服を着ていても分かるがっしりとした体格で格好が良い。
「ありがとうございます」
なぜここに、と思うリリーを「髪色も素敵だ」と、もの珍しそうに眺める。
「お国では珍しい色ですか」
「そう。初めて目にした。君の言葉は聞き取りやすいね」
言われて初めて、リリーは自分が公国語でも古いタイプの発音に変えていると気がついた。
他国人が習う時には正調のこちらで学ぶと、エドモンドに異能で落としてもらい苦労せずに習得したので、意識もしていなかった。
同じ公国語なので少し気をつければ、面倒ではあるが誰もが遣える程度のものだ。
「イグレシアス公子」
ジャスパーが離れた卓から呼んだ。
「彼の話も聞きやすいんだ。今日は時間がないから改めて」
白い歯を見せる大きな笑顔を残して、去っていく。
「アイア……」
カミラが難しい顔をする。とりあえずブレスレットは何も警告しない。
「悪意はないから大丈夫」そう告げると、なぜかペイジとモンクが面倒そうな顔つきになり、スコットは無言でお茶を飲んでいる。
「悪意がないのは分かってるわ。好意が厄介なんじゃないの……」
カミラのため息をペイジとモンクの無言が後押しする。
「好意って、カミラったら」
髪色が珍しい、と言われただけで好意と取るのは大げさでは。
「半年しかいらっしゃらないのだし、学年も違うから」
接点もない。そして陽気な国民性と聞くから、思いついたらすぐ言葉にされるのだろうと思う。
「そう願うわ」
まるで信じていない口ぶりのカミラの肩に、ポンポンといたわるようにスコットが手を置く。
「僕たちもできることはするから」
ペイジの声がけにモンクも力強く頷く。
みんな何を言っているんだろう。リリーの見あげた空は、気持ちよく澄んでいた。




