ダンス*ジャスパー・2
向かい合って組んでみると、初心者だと聞くのに意外にもアイアゲートの腕は正確な位置に置かれた。
音には合わせられないと言うので、ピアノをお願いせずカウントをとることにする。
ステップを確認すると名称をまるで知らないと分かった。不思議に思い尋ねる。
「それでどのように覚えたのですか」
「ひとつ出来るようになると、次を教えてもらって。前にできたものに足していくの」
それがアイアゲートには当然らしい。カウントを取りながらその場で簡単に一通り見せてくれるようジャスパーは頼んだ。
やわらかに広がるスカートの下で、ジャスパーの初めて目にする足さばきや複雑なステップが繰り返さずに繋がり、リフトなどという考えられない動きまで組み込まれていて、再度それはダンスなのかと問いたくなる。
「真上に飛ばして頂いて」と指示するアイアゲートを止める。もはや軽業ではないか。
ジャスパーは足と指を使いながら一連の動きを理解して、アイアゲートの背中に手を添えた。
他の生徒は休憩中で壁に沿って立っているし、ダンス講師は音楽講師と話している。
広く空いた舞踏室の中央でジャスパーはアイアゲートとポーズをとると、背中に添えた手で合図して音楽のないまま一歩踏み出した。
アイアゲートが真っ直ぐに見つめてくる。緑がかった灰色の瞳のうちに、一筋の光が見える。美しい、と思った。
伝えられた通りにステップを踏むと、嬉しそうにする。その瞳はジャスパーを捉えて離さない。
思い立って歩幅を少し広げると、アイアゲートの身体がぐっと伸びた。彼女にダンスを教えた者は、自分よりも長身もしくは脚が長いらしい。
「真上に飛ばして、思いっきり。降ろすときは腰で受け止めて」
早口の指示にあわせる。何をするのかと思えば、空中で身体を一回ひねりそのまま受け止めるジャスパーの腕へと戻ってきた。
舞踏室のどよめきが伝わるが、今のジャスパーには気にする余裕がない。
繋ぎとは思えない動きから高速スピンを十二回して「そのままの勢いで私の腰を持ち上げて」と、首に両腕をしなやかに巻き付けてきた。
アイアゲートの身体が浮きスカートが風をはらんでぶわりと広がった。彼女の脚が人目に晒されているのではと気になっても、次の動きへ移行するためどうしようもない。
肩肘をしっかりと固定して、跳ねるようなステップを続けた。一足の幅が広く、すぐに部屋の端へと到達してしまう。
これほど伸び伸びと踊るには、どれだけ広い部屋で練習しているのか。ジャスパーは愕然とした。




