紳士録は薔薇の香り・2
「グレイはアレにとって必要な人材だ。私が四六時中隣にいるわけではない。マクドウェルのような者からの護衛が必要だろう。金で動かせれば楽だが、グレイ家ともなるとそうはいかない」
ジャスパー・グレイがリリーお嬢さんを守る必要を感じる、または守る事が益に繋がると考えれば、自主的に動くとエドモンドは見ているのだ。
「でなければ、自分のヒヨコを他人に撫でさせたい者がどこにいる」
エドモンドが僅かに顔を顰めた。
「はあ」と間の抜けた返答をしそうになったロバートは、曖昧に頷くにとどめた。
ひとつ気がついた事がある。若き主は「今夜のうちに落とせ」と指示した。そして「虫がたかる」と言って普段はリリーには使用しない自分用のオイルを、今夜に限って念入りに馴染ませていた。
ジャスパー・グレイならば、あれほど香る薔薇の香りは大公家と結びつけるに違いない。
それが三兄弟のどなたかまでは分からなくても、牽制には充分だ。
「なんとも大人げない……」
所有権を主張するようなものではないか、と思ったロバートは、つい独り言を口にした。
「何か言ったか」
聞こえているはずのエドモンドが聞き返す。
失言を繰り返すようなロバートではない。「いえ」短く否定して会話を終えた。
「ローズヒップティーを淹れたからどうか」と誘うと、ジャスパーは「いただきます」とためらいなく口にした。
どちらの部屋にするか迷って、リリーの部屋にした。
冬になって寒くなったら暖炉にあたらせてもらおうと思っているが、それはまだ言ってない。今のうちから冬に向けて仲良くしておきたいところだ。
「紳士録の追記部分を覚えたから、手をかして」と言えば、ジャスパーはすぐに握手をしてくれた。
部屋に椅子はひとつしかないので、ジャスパーにすすめ、自分はベッドに腰掛けていたけれど、静かにしていたらジャスパーはすぐに眠ってしまった。
坊ちゃまのくれたお薬は効きが良い上に怠さが残らないらしい。
「ジャスパー」
呼びかけても返事はない。
「では、ちょっと失礼して」
リリーは律儀に断ってジャスパーの膝にまたがった。
坊ちゃまエドモンドから「受け取った」時は、お互いに服を着ていない状態だったので極めて早く済んだけれど、さすがにジャスパーを脱がせるわけにはいかない。
シャツのボタンをいくつかはずし、坊ちゃまより少し薄い胸と首筋に触れる。ついでに額もつけておく。
服越しではあるが脚も密着させているから、それなりの速さは出るだろう。リリーとしては練習にもなる、そんな気分だ。
「余すことなく受け取れ」
坊ちゃまとそっくり同じ言葉を合図に開始した。
ジャスパーの鼓動が早い。体に負担はないはずなので、リリーの体が重いのかもしれない。
「しばらく我慢してね、ジャスパー。私のしたいようにさせて。悪いようにはしないから」
リリーは眠る相手に宥めるように言い聞かせると、最速を求めて目を閉じ集中した。




