貴公子と美貌の女伯爵・1
エドモンドと女伯爵エレノア・レクターが会うのは帰国してからこれで三度目。
息子を紹介させて頂きたい、と申し出があり、侯爵家で開かれる舞踏会で会うことにした。
帰国してすぐに会ったエレノアは以前と変らず美しかったが、そこに貫禄がついていた。遊び相手にしたいなどど軽々しく思えないような雰囲気を醸し出している。
これなら紳士と対等に渡り合えると、エドモンドは評価した。
「エドモンド様、子供の頃にお目にかけて以来ですわね。次のレクター伯となりますアレンでございます。以後のお引き立てを賜りたく、ご挨拶申し上げます」
普段より重々しい口上を述べるエレノアは、母というより当主の顔をしていた。
後ろでは母によく似た顔立ちの青年が緊張感をみなぎらせて直立している。
「昨年から社交に出ていると聞いている。エドモンドだ」
記憶にない子供時代の話は省く。社交用の笑みと共に差し出したエドモンドの手を、感激した面持ちで握るアレン。
「お会い出来て光栄です」から始まる当たり障りのない会話を二言三言交わすと、「素敵なお嬢さんでも探していらっしゃい」とエレノアが息子を送り出し、エドモンドとふたりきりになった。
「会って下さってありがとう」
言葉遣いがくだけた。
「いや、他ならぬあなたの頼みだ。何ということもない」
エドモンドは視線だけで給仕を呼び止めグラスをふたつ取った。一方をエレノアに渡す。
「戻ってすぐのエドモンド様にお目通りがかなう事が重要ですわ。皆様のお目のある場所で」
うっすらと笑むエレノアを、「今夜もまた美しくていらっしゃる」と称賛すれば、お気遣いなくとでもいうかのように指先をヒラリとさせる。
「お世辞は結構ですわ。絶え間なく会っていたならともかく、久しぶりですもの容色の衰えには驚かれましたでしょう」
「いや、見事な当主ぶりに感服している」
エドモンドは率直に返した。
「息子が同じ場にいては、女としては振る舞えませんわ。あの年頃の子は、母に女であって欲しくはないものでしょう? ですから、エドモンド様もアレンの前では『高貴なお友達』ですわ」
グラスで口元を隠し告白する。
「そうでなくとも、あなたはもう『ドレスを脱ぐのが面倒』なのだろう」
エレノアが一瞬驚き、目元に笑い皺を刻んだ。
「エドモンド様がそんな言い回しをなさるなんて。留学の成果ですわね。少しタイアン殿下みたいですけれど。ええ、間違いございませんわ。そろそろ色恋の舞台は降りますわ」
少し考えるようにしてから、声を一段ひそめて探るように聞く。
「若いご令嬢を見繕いましょうか」
なんともまあ気の利くことだ、とエドモンドも頬を緩める。歳が離れている事もあり、エレノアはずっと物わかりと察しのよい「恋の相手」だった。




