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貴公子は抱えたヒヨコを放さない・2

「髪のことは聞いていたが」


 報告で知ってはいたが、実際に見るとリリーの髪は想像より短かった。自分で切ったとは聞いていたが、何とも思い切った事をしたものだ。


 パサつきには「お勉強が忙しくて構っていられなかった」と本人は言い訳したが、目のそらし具合からしてただの手抜きだろうと、ロバートは思った。


 これからまたエドモンドが手をかけ美しい髪を取り戻すのだろう。

「私がいなくても多少は手入れしろ」と小言を言っていたくらいだから。



「グレイの子息が盾となっているが、揉め事の原因も同じグレイだ。マクドウェルは取り巻きをうまく扱えていない。次に何かあれば、ロバートお前が動け」


 取り巻きの勝手を許すのは、統率力がないという事。学院は社会の縮図だ、今後が知れる。「辞めさせろ」ではないだけ温情がある。

 


「明日、契約書を作れ。私が離したのではなく、自分から離れたというのに、不安で仕方ないらしい」


 エドモンドが膝に乗せたリリーの顔に目を落とす。息をしているのかと心配になるほど静かで、その眠りは深い。


 母の亡くなった日を境に、リリーは隠れ家へ寄り付かなくなった。事情は理解しているし、無理からぬことだ。


「ここへいつ来ていいのか、自分の立場が何なのかが分からず、落ち着かないらしい」


それも異能で得たのだろう。


「明日、話を詰めて書面で渡してやれ。給与もコレには受け取る権利がある」



 エドモンドが言うのは。リリーに道案内を頼んだあの日。市庁舎に時間に合わせて出向く必要があったのは、土地建物の所有権を巡っての話し合いに出席する為だった。


 エドモンドの母方の祖母が所有していたもので、エドモンドに譲るという遺言状の開示に立ち合わなければ、権利を失するところだった。


 街の一等地にある賃貸物件で、そこからの収益が今、リリー達の奨学金となっている。


「私といれば人目につくことは避けられない。『平民女性の地位向上の為』近くに置いている体にはするが、後に続く女子を増やして風当たりを減じる必要がある。女子の奨学生を増やせ。コレがいなければ、なかった収入だ。全てコレに使ってもかまわない」



 エドモンドが言葉を切ったタイミングで、ロバートは軽くベッドカバーを整えた。


 若き主は、他にもいくつかの案を求めて来るだろう。簡単ではないがリリーの為だと思えば、負担には感じない。


「初体験の相手は二度と御免だな」


 エドモンドの言葉を背中で聞く。「手がかかり面倒だ」という軽口ならいいが、そうではなく奥方を迎えたくないという意思表示だとしたら。


 遠回しというより率直すぎる。そしてこれにもロバートは言葉を返す事はできかねる。



「他にご用はございますか」

職業的な微笑を湛えて尋ねた。


「いや、ご苦労だった」

エドモンドがねぎらうのも、また珍しい。たった数時間のうちに余裕と風格が増したように見える。


 止めていた時間が一気に動き出したのだとロバートは実感した。


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