表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/560

家令ロバートの再会・1

 ロバートはエドモンド所有の荘園に建つ館にいた。公都の外れにあるこの荘園は、以前リリーに宿り木を見せた場所であり、学院からも近い。


 公都にいればお誘いがひっきりなしで。嫌気のさした若き主は公務の続く日は本邸の離宮で、それ以外はこの荘園邸で過ごすと決めた。


隠れ家と呼んでいた小さな家もそのまま置いてある。


 留学から帰国したのは二月末。三年ぶりに戻れば何かと忙しく、気にはなりつつも学院へは足を運んでいなかった。


 エドモンドが学院の理事会へ出席するのは今日が初めての事で、ロバートは若き主の帰りを待っていた。







 留学先へ公国からの便りは年に四回。船の行き来がそれしかないせいだ。そのたびに必要な書類とは別に、分厚い手紙の束とリリーの成績表が届いた。


 学院講師となったアンガス・オーツ、級友のカミラ・シーゲル、一学年上の男子生徒二人とエリック。エレノア・レクター女伯爵からは、どの家が縁戚となったとか代替わりしたなど、社交上の報せが届いた。



 リリーの学院での成績は予想を上回るものだった。そこに本人の必死さを見るようで、ロバートは胸の痛みを覚えた。


「よくやっているが、この先は本人の努力では如何ともし難いところだ」


 異国の屋敷で、紙束から目を離さずにエドモンドが述べる。


「世に出れば女の一位より、男の十位が重用される」


エドモンドの言うとおりだった。


「そして女であるというだけで理不尽な目にあう」


 ペイジとモンクが助け出した一件を指すのだろう。平民と侮られればあるだろうと予測できた。校則を変更しておいて良かったとロバートは真っ先に思ったものだ。


淡々とした声に反してエドモンドの目つきは厳しい。



 異国でも公国と同じ生活を送ろうと思うなら、エドモンドの力をもってすれば難しくはない。

が、エドモンドは朝食以外は全てこの国の習慣にあわせた。


 公国より生命力に溢れ肉感的で感情表現の豊かな女達、名誉を重んじ力勝負にすぐもちこむ熱い男達のなかにいても、やはりエドモンドはエドモンドだった。


 涼しげで硬質な雰囲気は、陽射しの強い異国でも変わることがなかった。それがまた熱狂的な人気を呼んだのであるが。



 暇があるとエドモンドは手慰みに絵を描いた。ごく簡単な線で描き水彩絵の具で着色する。


 ほとんどがリリーだった。眠っていたり、横を向いていたり。どれも少し陰を感じる。エドモンドの感情が反映しているのか、見るロバートの加減か。


 ロバートは「どうしていらっしゃるでしょうね」と、口にしそうになるのを飲み込んだ。


 そして三年が過ぎ、熱心に引き止められたものの、当初の予定通りエドモンドは帰国した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 離れていても、いや、離れているからより気になる存在。だから、手慰みの筆が描くのは可愛いヒヨコ。 煩わしいことばかりの留学先でふと思うのは、「アレを守れるのも、この身分があってこそ」とかか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ