家令ロバートの再会・1
ロバートはエドモンド所有の荘園に建つ館にいた。公都の外れにあるこの荘園は、以前リリーに宿り木を見せた場所であり、学院からも近い。
公都にいればお誘いがひっきりなしで。嫌気のさした若き主は公務の続く日は本邸の離宮で、それ以外はこの荘園邸で過ごすと決めた。
隠れ家と呼んでいた小さな家もそのまま置いてある。
留学から帰国したのは二月末。三年ぶりに戻れば何かと忙しく、気にはなりつつも学院へは足を運んでいなかった。
エドモンドが学院の理事会へ出席するのは今日が初めての事で、ロバートは若き主の帰りを待っていた。
留学先へ公国からの便りは年に四回。船の行き来がそれしかないせいだ。そのたびに必要な書類とは別に、分厚い手紙の束とリリーの成績表が届いた。
学院講師となったアンガス・オーツ、級友のカミラ・シーゲル、一学年上の男子生徒二人とエリック。エレノア・レクター女伯爵からは、どの家が縁戚となったとか代替わりしたなど、社交上の報せが届いた。
リリーの学院での成績は予想を上回るものだった。そこに本人の必死さを見るようで、ロバートは胸の痛みを覚えた。
「よくやっているが、この先は本人の努力では如何ともし難いところだ」
異国の屋敷で、紙束から目を離さずにエドモンドが述べる。
「世に出れば女の一位より、男の十位が重用される」
エドモンドの言うとおりだった。
「そして女であるというだけで理不尽な目にあう」
ペイジとモンクが助け出した一件を指すのだろう。平民と侮られればあるだろうと予測できた。校則を変更しておいて良かったとロバートは真っ先に思ったものだ。
淡々とした声に反してエドモンドの目つきは厳しい。
異国でも公国と同じ生活を送ろうと思うなら、エドモンドの力をもってすれば難しくはない。
が、エドモンドは朝食以外は全てこの国の習慣にあわせた。
公国より生命力に溢れ肉感的で感情表現の豊かな女達、名誉を重んじ力勝負にすぐもちこむ熱い男達のなかにいても、やはりエドモンドはエドモンドだった。
涼しげで硬質な雰囲気は、陽射しの強い異国でも変わることがなかった。それがまた熱狂的な人気を呼んだのであるが。
暇があるとエドモンドは手慰みに絵を描いた。ごく簡単な線で描き水彩絵の具で着色する。
ほとんどがリリーだった。眠っていたり、横を向いていたり。どれも少し陰を感じる。エドモンドの感情が反映しているのか、見るロバートの加減か。
ロバートは「どうしていらっしゃるでしょうね」と、口にしそうになるのを飲み込んだ。
そして三年が過ぎ、熱心に引き止められたものの、当初の予定通りエドモンドは帰国した。




