宝探しの夜に・1
定刻までに戻らなかったのは三組。みな要所にいた教師と合流し「足元の危ない夜歩きを避け明日戻る」と、報せが届いた。
居場所が分からないのはリリーひとりだ。組んでいたマルコムは単身戻った。
マルコムの言うとおり「二人揃って戻ること」というルールはない。
教師を驚き戸惑わせたのは、どれくらい前のものとも知れない金属の玉だった。これもまた「今年の物でなければならない」というルールはない。
口数の少ない彼には珍しく強い主張に、誰もがリリー・アイアゲートの影響をみた。
マルコム組とジャスパー組の一位が決定した。
日が落ちた今、森の入口にいるのは教師二人とジャスパーのみ。
「あの子なら心配いらないわ。賢いもの」
オーツ先生は軽く笑い、自分も残ると言うマルコムを引っ張って帰って行った。
「あなたは好きになさいな」とジャスパーにはウィンクひとつが残された。
春とはいえ夜はそれなりに冷える。少し風も出てきた。風が避けられる場所にいればいいが。ジャスパーは森を見つめた。
今も方角は何となく見当がつく。もっと距離が近くなればアイアゲートのいる正確な位置が掴める。
ジャスパーの手元にはブランケットがある。アイアゲートの分は、マルコムが持ち帰ったので彼女の手荷物には防寒具がない。
探しに行きたくても「アイアゲートの居場所がわかる」と口に出せない以上、教師に止められる可能性が高い。
伝えてから制止を振り切って行くか、言わずに行くか、ここで待つか。
アイアゲートは判断を誤らない。オーツ先生の見解が正しいとは理解している。
行くのはアイアゲートの為ではない。一晩待つ事が嫌で自分が安心したいのだと、ジャスパーには自覚があった。
ジャスパーの耳がすぐそこで靴音をひろった。あまりに密やかで気づくのが遅れたせいで、もう顔の見分けがつく位置まで来ていた。
歩いてきたのは、わずかに上がる口角で友好的だと示す、父親世代の紳士だった。
視線が交差すると、紳士は目下にとるには丁寧すぎるほどの礼をとった。ジャスパーも、同じように返す。
「リリーがお世話になっております。家の者でございます」
父と名乗らないならば、目の前の紳士はアイアゲート氏ではなくケインズ氏。成績表を受け取りに来校するエリック・ケインズ氏の父だろうと当たりをつけた。
「同じクラスのジャスパー・グレイと申します」
ここへは、学院からの連絡で足を運んだのだろう。付け加える。
「ご心配ですね」
ありきたりと知りつつジャスパーは口にした。
「はい。暗いところにお一人ではお寂しいかと案じまして」
ジャスパーの隣に立ち、沈んだ色の森を眺める。
保護者と同行なら。自分ひとりでは森に入る許可が出なくても、アイアゲートの保護者が探しに行きたいと願えば着いて行くことは出来るのでは。考えたジャスパーが紳士に目を移すと。
「リリーによくして下さっていると、聞いております。今も、迎えに行ってくださるおつもりでしたか」
先に切り出された。




