宝探し・3
ルールは聞くだけでなく、監督する教師に重ねて確かめた。
「ふたり揃っていなければダメとは言われなかった。どちらかひとりでも玉を持ち帰れば良いはず。先生に何か言われたら、そう説得してください」
それでもマルコムは行こうとしない。まずはリリーが彼を納得させなくてはならない。
「ロープを下ろしてもらってここから登っては、時間がかかります。それでは勝てない。私ひとりなら時間を気にしなくていいから、遠回りにはなるけど下までおりて戻る。途中途中で目印を置いて来ているから、迷うことはありません」
要所に釘を置いてきた。順に辿れば日が落ちても月夜の今日は帰り道が分かる。
マルコムの「最善を尽くす」チームは、リリーの「絶対勝つぞ」チームだ。
ルールの曖昧な部分は、不可とされなければ可とみなしてギリギリまで攻める。
迷う様子のマルコムに、リリーはカミラに話すように語りかけた。
「マルコム。行ってくれないと、私の努力がムダになるわ。これくらいしないと普通の人は良い成績なんて取れないの」
女の子なら特にそう。男の子と同じだけ出来て並んでいたら、選ばれるのは男子だ。女子は傍目に見てもわかるほど上を行かなくては選んでもらえない。
そしてマルコムより成績のいいのは私。勝ちたいのなら、聞くべきだ。さすがにリリーもそこまでは口にしないけれど。
黙っているマルコムの気持ちが傾いたと感じる。
「身体能力強化を使えるだけ使って。ここからは任せる。私は安全を優先して戻るから暗くなったら動かない。明るくなるのを待って戻るわ。だから心配はいらない」
マルコムの能力が、動きの速さを上げるのか体全体の強度を上げるのかは知らないが、使わないよりは使った方が早く戻れるだろう。
そしてこの森には襲ってくるような獣はいない。夜も大丈夫だと説明にあった。つまり迷子は想定済みだ。
リリーは最後のひと押しに入った。
「ここだけの話にして欲しいんだけど、子供の頃から夜に家を出されて外で寝たことくらい、何度もあるの」
口にするのはここまで。理由なんて余計なものは話さない。叱られて夜の庭に出された経験は、男の子なら誰でもありそうだ。
マルコムがようやく首を縦に振った。
「分かった。玉は僕にまかせて、アイアゲートさんは気をつけて帰ってきて」
「心配しないで。木の枝に気をつけてね」
「ありがとう、行くよ」
マルコムのたてる草の擦れる音にリリーは耳を澄ませた。速い。
説得に時間をかけてしまったけれど、取り戻せるかもしれない。それでもジャスパーに勝てる気はしないけれど。
さて。まだ少し気をつけて下までおりなくては。リリーも動き出した。




