宝探し・2
「走って行った人達がいたから、近い場所の玉はもう見つけられていると思います」
リリーは歩みを止めずに考えを述べた。
先にされたルール説明では「今年の玉でなければならない」とは言われなかった。
そして、過去に取ろうとして失敗し手の届きにくい場所へ移動してしまった玉や、取りきれなかった玉が残っているはずだ。人と同じ玉を探すより、それを探す方が競争相手がはるかに少ない。
考えが一緒であるとも思えないが、リリーの方針に反対するつもりはないらしい。マルコムは何も言わなかった。
しゃがんで地面を眺めたり、斜面に身を乗り出すリリーを後ろから支えたりと、マルコムは細やかに手助けをする。
「あった」
そうこうするうちに、リリーがか細い気配をたどって見つけたのは、急斜面の下にある落葉に埋もれかけた玉だった。
鈍く光り金属であると控えめに主張する。
リリーとマルコムはこれの前に、壊れかけた古い鳥の巣から金属の玉をひとつ手に入れている。
他に手持ちのガラスの玉がひとつ。別の組と同時に見つけたので、交渉して譲ってもらった。
あちらは男子二人組で、遠くまで行けるけれど、その組の精神系の使い手は玉につけられた目印に対する感受性が鈍かった。
なので、リリーが遠くにある金属の玉の位置をできる限り細かく教える事引き換えにと、ガラスの玉を譲ってもらった。
遠くなればなるほど競う相手は減る。ふたつともは難しいだろうが、どちらかは入手できるだろうと、リリーは予測した。ガラスの玉を譲るに値する有益な情報だ。
斜面の端ギリギリに立ち下を覗いたマルコムが「これは無理ですね」と口にする。
「見たら取る」
彼の意見には同意しかねる。リリーは宣言しぐっと口角を上げた。
「でも、足下も定かじゃないし、まわりこむには時間が足りない。急で危ないです」
マルコムの言うように、登るより下る方が怖く感じるような斜面だ。
「ある程度リスクをとらなきゃ、上位は狙えません。黒の王子でもない限り」
こういう競技は体力がものを言う。女子男子の組み合わせは不利だ。
リリーは「私が行きます」と言い張った。難色を示すマルコムを説得し、ロープを腰に巻いてしっかりと結んぶと、もう一方は太い樹の幹に括りつけロープの中程をマルコムの肩にかけ調節を頼む。
そして後ろ向きに斜面に両手をつき、そろそろと降り始めた。草しか掴むものがないが、滑り落ちても落葉の下に岩でもない限りケガはなさそうだ。
時間をかけ慎重に動いて、指が強張りを感じるころ、ようやく金属の玉を手にした。くもり方を見ても昨年かそれ以上前のものだ。
リリーは大事に玉をハンカチに包み、腰から解いたロープに結びつけた。
「引いてください」
マルコムの手に収まったのを見て伝える。
「それを持って戻ってください。終了時間より早ければ、それだけ加点がもらえます」
時間を使い切るまで粘って探すか、いくつか集めた時点で早くに戻り加点を狙うか。それも作戦のうちだ。
「アイアゲートさんは? ふたり一緒でないと」
マルコムの真底驚いた声がリリーに降りそそいだ。




