紅薔薇の貴公子・2
リリーの「占い部屋」は、人が途切れることのない人気ぶりだった。行列が出来るほどではないが、退屈する暇はない。女の子が多いけれど、男の子も来てくれていた。
「遊びは細部までこだわってこそよ。雰囲気が大事なの、雰囲気が。思うより本格的だったら『おおっ』ってなるじゃない。それだけで、ぐっと気持ちを引き込めるわ」
と、どこまでも協力的なオーツ先生は、お客様の手前今日は自分の部屋に閉じこもるらしい。個性的すぎる外見が理由だと思われるが、自ら遠慮しているのかどなたかに言われたのかは、リリーは知らない。
胸を張る小心者はいても猫背の自信家はいない。
四・五人が寮へと歩いて来るのを見ながら、リリーは自分なりの性格分けを試みていた。
ちょうど「お客様」の途切れたところ。カーテンの合わせ目に片目分の隙間を作って外を覗いたリリーの目に入ったのは、堅苦しくない装いながらも、一目で裕福だとわかる一団だった。
先生方より数段高級な布地で、仕立ての感じはスコットよりジャスパーに近い。つまり超一流。
「こちらが唯一敷地内にある寮でございます」
「男女の別は」
「建物は同じですが、使用する部屋は階を分けております。これまで一度としてトラブルが起きた事は、ございません」
質問するのは同じ紳士で、答えるのは副校長。他は黙って聞いている。
副校長の額にうっすらと汗が浮いているのを見れば、室内はひんやりとしていても陽射しは強いのだろう。
「現在こちらにいる主だった寮生は」
「グレイ侯後嗣ジャスパー・グレイ君をはじめとして――」
つらつらと数人の名があがる。リリーも知っている貴族の名だ。大抵の貴族の子は公都にあるお屋敷から通うので、ここに住む生徒は少ない。
大して興味もなさそうに聞いていた紳士が急に視線をリリーのいる窓へと寄越した。気付いているとは思わなかったのに、これ以上ないくらいしっかりと目が合う。
一団の中でもひときわ背が高く、歩く脚の出し方も美しく真っ直ぐで、この中で一番地位の高い方だと物腰からも伝わる。
余分な肉のまるでない頬やすっと通った鼻筋は、リリーにどこか切ない感情を抱かせる。
つい熱心に見つめてしまっていたのだろう。カーテンの隙間から覗くなんてお行儀の悪いところを見つかってしまった。
急いで合わせ目を閉じると、何事もなかったと言い聞かせて、リリーは今日の定位置へと戻った。




