時は今・5
勝負はついたとみたリリーと同じようにジャスパーもそう判断したらしい。
「間に合って良かった」
その言葉がリリーには終了の合図に思えた。
「来てくれてありがとうございます」
思うより早く来てくれた。
ひとりならこれほど強気な態度は取れない。到着するまで持ちこたえればいいと思えばこそ、出来たことだ。
マンゼは言葉もなく項垂れたままで、ジャスパーも謝罪を要求したりはしない。
何があったか正確には知らないはずだけれど、「ぶつかった拍子によろけた彼が転んだ」で済ませるらしい。
もちろん騒ぎを無駄に大きくしたリリーにも、ロビンの入った手提げ袋を振り回した誉められない行為がある。ジャスパーの考えに異存のあるはずもない。
「ここにまだ用がありますか」
ジャスパーが腕をようやく外し、リリーに問う。
「ないわ」
「彼はお気の毒ですが、ご友人もいらっしゃることですし、お任せして我々は参りましょう」
耳にしたことのない「我々」がおかしくて、「われわれ」と口真似した。それが彼の気に障ったらしい。
「ほら、アイア」
この上なく感じのよい笑みと共に腕を差し出し「アイア」などと堂々と呼ぶ。
リリーは丸い目をさらに丸くしたけれど、より驚いているのは周りのほうだ。耳を疑っているのがよく分かる。
「すみませんでした、ジャスパー様」
「いつもは様などとつけないのに、今日はどうしたのです」
他に聞こえるように言う意地悪は止まらない。助けてもらって言うのもなんだけれど。
「いじわる」
小声で文句を言うリリーに、ジャスパーは涼やかな表情を崩さない。
「明日からロビンはもう部屋でお留守番でいいわよね」
ジャスパーが駆けつけてくれたという事は、オーツ先生の術が見事に発動したわけだ。
それは有り難いけれど、その前のロビンの悪意の知らせ方はよろしくない。歩きながら念を押すリリー。
「それはどうでしょうか。もうしばらく用心すべきでは」
慎重ぶりを発揮するジャスパーに、「ええっ」とリリーが情けない声をあげる。
絶対にわざとだ。もう必要ないと分かっているはずなのに。これはまだ意地悪の続き。
上目遣いに見上げたジャスパーの口元には笑みが浮かんでいた。




