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時は今・3

「えいっ」

リリーは声と同時に、ロビンを入れた手提げ袋を大きく振り回した。


 まだ手を離していなかった誰かを、リリーが引っ張り返す形になった。大して上達していないとはいえ、一年体術を学んだ身だ。ひ弱じゃない。


 足を踏ん張り、地面に引き倒すイメージで体重を移動させる。

 見事、べシャリという音を立てて相手を泥濘に膝をつかせることに成功した。



 リリーの睨む先にいたのは、比較的小柄な男子生徒だった。自分に起こった事がわからない様子で、だらりと下げた腕も指は泥にまみれている。


リリーの記憶にはない男子だった。



 呆然としたまま瞬きひとつしない。先に周囲が動き出した。


「大丈夫? 滑ったのかしら」

「泥だらけよ。まずは立って」 


 男子生徒は心情を思いやってか遠慮がちにしているので、声をかけるのは女子生徒ばかりだ。


 膝立ちのまま差し出されるハンカチをぼんやりと見ていた彼が、急にピクッと動きリリーを指し示した。


「あの人だ、あの人に押されたんだ」


 押したんじゃなくて引いたんです。自分が先にやったのに人のせいにして。


 憤然と睨みつけるリリーに、周囲がざわつく。誰も何があったかなんて見ていない。



「僕にこんな事をしていいと思ってるのか。謝れ、謝れ」


 上ずった声が「謝れ」と連呼する。リリーはひとつ息を吸い、目つきを鋭くした。


「謝るのはそっちでしょう。私の手さげを引っ張って自分で転んだのに。泥だらけが恥ずかしいからって、私のせいにするのはどうなの。私は悪くない、絶対にあやまらない」


 彼が自分で転んだのではなく、リリーのせいなのだけど、そこは言わない。彼だって仕掛けたのは自分だと言っていないのだから、おあいこだろう。



 リリーの高らかな宣言により、空気が変わった。


 こんな時女の子は、ひとまず謝ってから申し開きを多少述べるような控えめさが求められるのに、リリーの取った行動は全く逆。


 どちらの言い分が正しいかより、「私は悪くない」と主張する女子生徒に反感を持った人は多いようだった。


 浴びせられる非難がましい視線を全身で受け止め、リリーはさらに顎を上げた。



 周りは見慣れない顔ばかり。リリーに加勢してくれる人は皆無だ。


「なんてこと!」 


 人垣の向こうから駆け寄った女子生徒が派手な悲鳴をあげる。レイチェルと仲の良いご令嬢だ。


 ケガをしたわけでもないのに少し大げさだと内心うんざりしているのは、態度には出ていないはず。


 そう考えるリリーの目の前で、助け起こそうと手を出したものの、男子の手が泥だらけだったため、女の子がすごい勢いで手を引っ込める光景が繰り広げられた。



 騒ぎは望み通り大きくなったけれど、比例して私への反感も大きくなっている。そこは多大な問題である。


「これでは、あなたが悪者にしか見えませんね」


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