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時は今・1

 リリー・アイアゲートがクマのぬいぐるみを持ち歩いている。


 その奇行は新学期が始まって二日しかたっていないのに、ずいぶんと知れ渡っていた。



「ごめん、カミラ。私といると悪目立ちするけど……いい?」


 恥ずかしいを通り越し諦めの境地に至った自分と違い、巻き込まれているカミラはものすごく不本意だろう。リリーは申しわけない気持ちでいっぱいだ。


「少しも気にならないわ。それに皆に見られるのは、アイアとロビンの組み合わせが可愛いからよ」


 驚くほど前向きにとらえる友人の目は曇りきっているらしい。


「それは無いと思う」

リリーはすぐさま否定した。


 こんなハメになったのはジャスパーのせい。今後一切彼には「様」なんてつけないとリリーは心に決めた。




 浴室を借りてそのまま暖炉の前で眠ってしまった日、朝目覚めたのは自分のベッドだった。


 まさか運ばせてしまったなんてことは……と恐る恐る尋ねるリリーに、ジャスパーはいつもの清々しい顔で「夜中に戻ったのを覚えてはいませんか」と応じた。


 疑問は残るものの深追いして良いことはない気がする。リリーは自分の勘を信じ、「そう言われてみればそうだったような」という曖昧な態度で話を終わらせた。




 そして「少し貸して頂戴」と言われてオーツ先生に預けたロビンが戻ったのは、新学期の始まる前日。


 届けてくれたのは、どういうわけかジャスパーで、同時にいくつもの指示が飛んだ。


「今日からこの熊を常に持ち歩いて下さい。この熊は悪意を持った者の接近をあなたに知らせるそうですね」


 まだ体感してはいないけれど、エリックからそう聞いている。オーツ先生に教えたのはリリーで、ジャスパーに教えたのはオーツ先生だろう。


「あなたが悪意ある者と接触したと熊が判断した場合、私に通知するようにオーツ先生が手を加えました」


 さらりと言われてリリーは絶句した。無駄に考えすぎたりしないぶん身体系の異能持ちのほうが、精神系の使い手より、術について案外あっさりと受け入れるとは前々から感じていた。


 けれど、同じ精神系の異能持ちのリリーには成り立ちの予測もつかない術を、ありふれたもののように説明するジャスパーが理解できない。


 間の抜けた顔になっていると自覚するリリーに、ジャスパーは常と変わらない調子で続ける。


「私が行くまで、状況を維持してください。そこはお手伝いのしようがありませんので」



 倉庫から出られなくなり迷惑を掛けたという負い目と、若いながらも上に立つ者特有の有無を言わせない態度に、つい承知してしまったけれど。


 十六にもなって毎日ぬいぐるみを抱いて歩くなんて、どう考えてもおかしい。


冷静になってリリーは頭を抱えた。


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