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貴公子は隠れ家に連れ帰る・4

 天使さまが見るからに柔らかそうな革手袋の片手を外して、手を差しのべているらしい。


 その指を見て、やっぱり天使さまじゃないのと思う。傷もささくれも一つもなくてスベスベ。こんな手見たことない。こんな手で暮らしていける訳がない。


「この手を取れ」

「……どうして? 天使さまの手が汚れるわ」


 ほら、靴を触っていたから汚いの。冷たい水を嫌って今日はあんまり洗ってない。リリーが広げて見せた手を掴まれた。


「お前は一度、その天使さまとやらから離れろ」


 呆れ果てたと云わんばかりの口調なのに、握る加減はとても優しい。そして紡がれる言葉はともかく、声が耳に心地好い。何もかもが他の人とは全然違う。


 ぼんやりと触れている指先から腕、肩そしてお顔へと視線でたどる。リリーの目にはどこもキラキラして見える。が。


「……坊ちゃま?」

「ようやくか」


 手のひらの感触から思い出した。通りで馬車がひっくり返って騒ぎになったのは確か春。おじ様に道を聞かれて手を引いて案内したあの時の坊ちゃまだ。


「坊ちゃまは天使さまだったの?」


 美しいばかりだった顔が不機嫌に歪むと、少しだけ人っぽくなるようだ。


「天使な訳がないだろう。今から後、天使という語は禁止とする」


天使さまに宣告された。なら坊ちゃまと呼ぼう。


「坊ちゃま道がまた分からないの? 今度はどこへ行きたいの?」


こんな夜にここにいるなら、通りは静かそうだけどまた何かあってお困りなんだろう。


「共に来い。温めてやる」

 リリーの問いには答えず小さく溜め息をついて。

「まさかこんな所で膝を折るような真似までするとはな」


天使らしからぬ事を口にする。

さすがにこれは、ない。


「……坊ちゃまは、天使さまじゃない」

「たがら先程からそう言っている」


 天使さまから人となったエドモンドが屈めていた体を起こしながら、リリーの手を引き立たせる。


「行くぞ」


 どこにとも、どうしてとも聞く気がリリーには起きない。頭の芯まで凍えていて何でもどうだっていい。


 坊ちゃまは人のようだけど本当は天使さまで。

門番のおばさんと読んだ童話みたいに、朝には冷たくなった私がここに転がっているのだとしても、それならそれでいい。


 ここよりヒドイ場所はいくらだってあるだろうけど、ここもずっと居たいようないい所じゃない。


 リリーが手を握り返すのが合図になったらしい。

エドモンドは浅く顎だけで頷くと、リリーの手を掴んだまま歩き出した。



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