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機を見る・4

 同じ午後、ジャスパー・グレイは新学期の行事について教職員と話し合っていた。次の級長も当然の如くジャスパーと決まっている。


 夕食前に寮へ戻ると、玄関にいた男子生徒が勢いよく振り返った。と同時に顔に隠せない落胆が広がる。


 ジャスパーを見て露骨にガッカリするものなど珍しい。



「こんばんは、よい夜ですね」


 すぐに取り繕い挨拶をしたのは、一学年上のペイジだった。リリー・アイアゲートが素行の悪い男子生徒に絡まれた際、活躍したふたりのうちのひとり。


 同じ寮生であるので、会えば軽く会話する程度の仲だ。特に距離を詰めてこようともせず、理想的な下位貴族子弟の振る舞いといえた。


「ええ、本当に。どうかしましたか」


 人待ち顔で少し焦っているようにも見える。言いたくなければ、別にいい。その程度の気持ちでそう尋ねた。ジャスパーにとっては社交辞令に近いものだ。



 少しの間をおいて、ペイジは思いがけないことを言った。


「アイアゲートさんを見かけませんでしたか、午後から。戻っていい時間なのに、姿が見えません」


「アイアゲート?」


 ジャスパーはすぐさま記憶を辿った。最近髪を短くした同級生の姿を今日見たのは、廊下だ。オーツ先生の部屋へと繋る通路。個人指導を受けている彼女にとっては珍しくもない。


 オーツ先生は、自分と行事について話し合っていた教師のなかにいた。ジャスパーの去り際には「ワタクシも今日はもう帰るわ」とコートを手にしていた。


 その時間にはアイアゲートは、先生の部屋にはいない、という事だ。



「部屋で寝ている、ということは?」


 念の為に確認するジャスパーに「それはありません」とペイジが断言する。


「モンクさんは彼女を探しに?」

ペイジとよく一緒にいる男子生徒の名を出した。


「校舎内を隈なく探しています」


 行き違いになるといけないので、ペイジはここにいると言う。賢明な判断だ。


 それなら他をあたるべき。居場所は自分ならば特定できるが、その能力は秘するものだ。ジャスパーはそれらしい言葉を並べた。


「彼女は時折オーツ先生の手伝いをしています。行きそうな場所に、少し心当たりがあります」


 休暇中で授業がない。彼女にしばらく触れていないので、位置を感じる力も弱いが、方角と近くであるくらいは分かる。それだけ分かれば充分だ。



 縋るようなペイジの視線に「なぜ、ここまで必死に」という思いが掠めるが、以前に学内でアイアゲートを間一髪で助けた彼らなら、当たり前かもしれないと思い直す。


「モンクさんが戻られたら、ここで待機を願います。私の手におえないようならば、すぐに戻りますので」


言いおいてジャスパーは寮を後にした。


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